日本の鉄路について考える

日本の鉄道についての記事を中心に紹介します

ブルーライン脱線事故から見えてくる鉄道従事員の過酷な勤務体系

8月29日に横浜市営地下鉄ブルーラインで起きた脱線事故、この事故は運転士の居眠りが原因で起きたと発表されています。当路線では6月にも工事用車両の転線等に使用する「横取り装置」の撤去を失念したことによる、初電の脱線事故が発生したばかりで利用者からの目は厳しさを増しています。

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装置の撤去を失念したことによって発生した脱線事故 復旧にはかなりの日時を要した ※画像:日刊新聞

事故は踊場駅の引き込み線で発生しており、当列車は折り返し準備のため引き込み線へ進入しました。その際に運転士が居眠りをしており、車止めを突破してトンネルの壁に衝突して停止しました。通常はATCなどの列車制御装置により、列車の速度が制限速度を超過している際は自動的に列車の速度を落としたり、停車させることが出来ます。しかしこの引き込み線は営業用の線路ではなく旅客が乗った状態で使用しないことからその装置が設置されておらず事故につながったといわれています。

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車止めを破壊して壁に突っ込み脱線した車両 ※画像:京都新聞

突然ですが、皆様は「3K」という言葉をご存知でしょうか?

鉄道業はこの「3K」の職場であるとよくいます。われています。

3Kとは「きつい」「汚い」「危険」の3つの言葉が由来となっており、まさに鉄道業(主に現業職)はこの職種に当てはまります。

 

①きつい

鉄道は首都圏だと深夜1時頃に終電が終わり、早朝5時前からは初電が走り始めます。すなわち駅が営業していないのは4時間未満に過ぎません。その間に駅係員や乗務員は仮眠を取り、早朝からの勤務に備えます。

鉄道会社にもよりますが、早番遅番を導入している場合は、終電前に仮眠に入って初電が走り始める前から仕事をする早番と、終電後まで仕事をして仮眠に入って朝ラッシュ前から勤務に戻る遅番があります。また一部の会社では早番遅番がなく、全員で終電まで作業し、初電前から仕事に戻る場合もあります。

終電が遅れればその分係員の仮眠時間も削られますし、終電近くのトイレは汚物などの汚れがひどい場合もあり、会社によってはその清掃も駅係員が行っていますので、臭い等がひどい場合は大変な作業になります。

また、ホーム上で列車の乗り降りを確認したり、旗などを使って乗務員に閉扉合図を出すホーム監視業務がある駅もあります。一見ただ旗を振っているだけのようですが、旗を挙げるタイミングを見計らう必要があったり神経を使う仕事です。

また、暑い夏も寒い冬も暴風が吹き荒れても、雪が降ってもその仕事は必要な仕事です。ホームで電車を待つだけでも嫌になりますが、駅係員はそれを何時間も行っているのでかなり体力的にもきつい仕事です。

また最近ではモンスタークレーマーなどが増えており、窓口で接客する駅係員はそういった人にも応対しなければなりません。接客業をされている方はお分かりいただけると思いますが、これはかなり精神的にきついものがあります。

 

②汚い

終電近くの駅のトイレやホーム上にある汚物の処理や、具合が悪くなって吐血等をされた場合はたいてい駅係員が清掃しています。

この時の臭い量の多さに絶句する新入社員は多く、それに耐えられない人も中にはいるようです。

また駅自体が古いと、駅係員が使用する事務室なども汚い場合が多く、環境は決していいとは言えない状況です。

 

③危険

ホーム上で列車監視をしている際は、ホーム端で旗を振ったり、安全確認をすることが多くあります。すなわち、何かの拍子に線路上へ転落する恐れがあったり、列車に接触する危険があります。最近ではホームドアの導入が進んでいる路線もあるので、そういった面では危険性が軽減されてきています。

その他にも酔客の対応で暴力を振るわれる恐れがあったり、トラブルが起こった際は線路上に降りて作業をする場合があったり、一歩間違えれば即死する場合も存在します。

また乗務員であれば、一つの操作ミスが自分だけでなく多くの命を危険にさらす恐れもある責任が思い職務です。それだけ、危険が多い職場でもあるのです。

 

このように、鉄道従事員は3Kと呼ばれる過酷な勤務をこなしているのが現状です。

 

~鉄道従事員は睡眠不足になりやすい勤務体系~

駅係員や乗務員は日勤勤務と泊まり勤務を交互にこなすことが多い勤務体系です。

その中でも泊まり勤務は、「4時間仮眠18時間勤務」が一般的であり4時間の仮眠も終電対応や初電前の点検、着替え等の時間が含まれており4時間寝れる場合は稀です。

また、泊まり勤務の明け番で帰宅後に睡眠をとってしまうと昼夜サイクルが逆転して日勤業務に支障をきたす恐れがあるため、睡眠をとらない人も多くいます。

乗務員に関しては勤務開始時間が分刻みで決まっており、日によって時間もまちまちです。そうすると自ずと生活習慣が不規則になり睡眠不足や体調不良を引き起こしやすくなります。

 

他の業種にも泊まり勤務は存在しますが、多くの場合は3交代制になっていたり、泊まり勤務者は必要最低限かつ予備要員という扱いのところが多くなっています。

鉄道業界も同じような勤務体系を取ればいいと思われがちですが、鉄道は基本的に朝ラッシュの時間帯(7時から9時頃)が忙しく、昼間はそれに比べると落ち着き、夕方の帰宅ラッシュから終電頃までは利用者数が多くなったり、酔客等の対応が発生したり忙しくなります。

朝ラッシュの時間帯に多くの人手を必要とするので、終電まで勤務して駅に泊っている駅係員や乗務員を翌朝の朝ラッシュ時にも充当しなければならず、睡眠不足の状態で勤務にあたっているのが現状です。今回の事故も睡眠不足の状態である乗務員が引き起こした事故であり、ラッシュ時間帯の話でした。

そうするとミスなどのヒューマンエラーが発生しやすくなるのは当たり前のことであり、仮眠時間の不足による問題の解決には人員の増員が必要になりますが、人手不足が叫ばれる今日では難しいでしょう。

公共交通機関であるがゆえに、無理な勤務体系がゴリ押しされてきた鉄道業界ですが、これは日本社会の窮屈さを体現しているともいえます。鉄道従事員の働き方を考えることが結果的に私たちの働き方にも関わってくるような気がしてなりません。