日本の鉄路について考える

日本の鉄道についての記事を中心に紹介します

北越急行の現状から将来の第三セクターを考える

北越急行ほくほく線といえば、北陸新幹線金沢駅延伸まで特急「はくたか」が走っていた路線として有名で、長らく東京北陸間の速達輸送を担ってきました。

今回は北越急行ほくほく線北越急行株式会社の歴史と、北陸新幹線金沢延伸による変化を見ていきたいと思います。

f:id:southsnows:20190912215200j:plain

北越急行の看板特急であったはくたか号 北陸新幹線金沢延伸と共に姿を消した ※画像:東洋経済オンライン

 

北越北線として開業予定だった

国鉄時代に地方新線の一つとして建設が進められていた北越北線でしたが、国鉄の財政悪化に伴う「国鉄再建法」により、工事は中断されることになりました。

この頃の北越北線の位置づけとしては地方ローカル線という位置づけで非電化での建設が予定されていました。

工事中断後に北越急行株式会社が引き継ぎ(1984年~)、建設を再開し開業への準備が進められていきます。

 

北陸新幹線の建設計画の遅れに伴う立ち位置の変化

この頃には北陸新幹線の整備計画が持ち上がっていたものの、整備新幹線問題の関係で工事着工には至っておりませんでした。

そして北陸新幹線は長野以南の建設を優先することになり「長野新幹線」として暫定開業することになることがこの時期に決まりました。これは長野オリンピックに向けて長野までの開業を急いだ為と言われています。

 

これにより北越北線に白羽の矢が立つことになります。というのも東京対北陸間の高速輸送の一端を担う路線に昇格したからです。

元々優等列車の運行が予定されていた北越北線は高規格で路線が建設されていたため、電化開業することに変更をした上で軌道も200km/h運転を視野に入れた路線建設に切り替えました。

そしてJRと直通の特急列車を走らせることになり、駅の一線スルー化やレールの重量を引き上げるなど高速化の設備面での対策も施されました。

 

③路線名がほくほく線に決定

立山トンネルなどの工事の難航と高規格化工事等により、開業時期が後ろ倒しになっていた北陸北線でしたが、開業の5年前である1992年に路線名が公募により決定されました。それが今の「ほくほく線」であり、「温かいイメージで親しみやすく、呼びやすい」という理由から選ばれたといわれています。

そして線路などの設備が完成した1996年からは試運転が行われ160km/h運転でも問題なく運行可能であることが判明しました。

しかし北越急行は当面の間は140km/hでの営業運転を行い、160km/h運転実施までに技術的な更なる検討を行うことにしました。

 

ほくほく線運行開始

1997年3月22日にほくほく線が開業し、越後湯沢駅上越新幹線と接続して東京と北陸を結ぶ、特急はくたか号も運行を開始しました。

ほくほく線が開業する以前は、東京から北陸へ向かう場合は東海道新幹線を利用し米原経由で北陸入りするのが一般的でしたが、同線開業後は所要時間の短縮(約15分)により、上越新幹線を利用して越後湯沢経由はくたかに乗車するルートが有利になりました。

f:id:southsnows:20190912215543p:plain

ほくほく線開業以前は米原経由が一般的であったがそれを大きく変化させた ※画像:Wikipedia

1998年には最高速度が150km/hに引き上げられ、2002年には160km/h運転を開始しました。所要時間の短縮効果は2分程とそこまで大きくはありませんでしたが、それでも狭軌での160km/h運転は大きな話題となりました。

このはくたかの利用が好調なこともあって、北越急行は初年度を除き、毎年数億円の黒字を計上する、第三セクターなかでは珍しく営業係数の良い会社でした。

 

北陸新幹線金沢延伸

2015年3月14日に建設が大幅に遅れていた北陸新幹線がついに金沢まで延伸されました。これと同時にはくたかは東京対北陸の速達輸送の使命を終え、ほくほく線からも姿を消すことになりました。これにより、当路線の最高速度も130km/hに引き下げられ、設備のスリム化や撤去がはじまっています。

また、ほくほく線の収益の9割は特急はくたかによるものであったため、この年から営業利益は赤字に転落し、厳しい経営を強いられています。

f:id:southsnows:20190912220239j:plain

ほくほく線普通列車による収益は1割程度に過ぎなかった ※画像:乗り物ニュース

 しかしはくたか利用者の20%強は直江津駅を利用する旅客であったことで、新幹線開業後も一定の需要があることや普通列車が途中駅での退避をする必要がなくなったために所要時間が短縮が実現されたといった明るい材料もあります。

そして、北越急行は「超快速スノーラビット」の運行を開始しました。この列車は越後湯沢~直江津間を約1時間で結び、再速達列車は途中十日町駅にしか停車しません。最高速度は110km/hではあるものの、表定速度は88.6km/hと乗車券だけで乗れる列車の中では表定速度が日本一速い列車です。

この他にもシアター列車「ゆめぞら」によるイベント列車の運行など、利用者獲得の為に努力をしています。

また特急はくたかによる利益を利用して資産運用を行い、その利益で赤字の補填を行うなど、新幹線延伸後の苦境を考えて開業当初から手堅い運用をしているのも特徴的です。

しかしそれでも「永続的に鉄道を走らせていくため」には増収が必要であることから、2018年に運賃の改定が行われ、10%の値上げが実施されました。

 

 このように第三セクター路線は元々沿線人口が少ないなどの理由で輸送人員が少ないケースが多く、経営が厳しい状況です。

北越急行は新幹線の金沢延伸まで特急列車の収益により安定した経営が行われていましたが、その稼ぎ頭がなくなってしまった今、どのような経営に舵を切るかが重要なポイントになっています。その中でも、超快速スノーラビットの運行開始やイベント列車の運行などは評価されるポイントだと思います。

今後更に経営が厳しくなっていくとは思いますが、少しでも第三セクターの路線が将来にわたって活躍することを願っています。

中央快速線の朝ラッシュ対策の秘密

中央快速線は東京の玄関口である東京駅を起点に、副都心の中心地である新宿を経由し、高尾駅までを結ぶ路線です。この路線は都心と多摩地域を結ぶ重要な路線であり、朝夕のラッシュ時を中心にどの時間帯でも利用客の多い路線です。

このラッシュ時の輸送力を確保するために1時間に30本、すなわち2分に1本の間隔で列車を運行する離れ業を使っています。

今回はこの輸送力の確保を可能にしている中央快速線の秘密をご紹介させていただきます。

f:id:southsnows:20190910232137j:plain

ラッシュ時には1時間に4万人以上の利用がある中央快速線 これだけ大勢の乗客を輸送するのはそう簡単なことではない ※画像:Wikipedia

JR東日本「えきねっと」

①両面発着が行われる駅がある

通常、複線の路線には上り下りそれぞれ1本ずつ線路があり、それに対応してホームが設置されています。しかし中央快速線には、上り下りそれぞれに2本ずつの列車が停車できる駅(すなわち2面4線の駅)がいくつかあり、この駅が両面発着を可能にしており輸送力増強に一役買っています。その駅が国分寺三鷹中野新宿駅であり、日中は国分寺三鷹駅で特快と快速の退避にも利用されています。

そして近年行われた高架化により、国立武蔵小金井東小金井駅でも両面発着が可能になっています。

中央線の大きな駅はラッシュ時を中心に多くの乗客が乗り降りをする為、駅に1分程停車しないと乗客の乗降が間に合いません。しかし、2分間隔で列車を運行しようとすると、駅で1分停車している間に後続の列車が詰まってしまい、列車の渋滞が発生してしまいます(数珠つなぎとも呼ばれる)。すなわち駅に1分停車していくと、通常は2分間隔での運行は不可能に近いダイヤになります。

f:id:southsnows:20190910232255p:plain

中央快速線の路線図 都心と多摩地域を結ぶ重要な路線である ※画像:Wikipedia

 ②開閉する扉の工夫

中央快速線の大きな駅である国分寺三鷹、中野、新宿駅では両面発着が実施されるのと同時に、この4駅だけ見ると扉は左右順番に開くように設定されています。すなわち、国分寺で左側のドアが開けば、三鷹では右側、中野では左、新宿では右といった感じです。

一見あまり意味がないように思われるかもしれませんが、乗降の多い駅で扉が左右順番に開くと、一方のドア付近に乗客が溜まることを防ぎ、乗降をスムーズにする効果があります。

 

③遠近分離を目的とした列車の運行

中央快速線には朝ラッシュ時の上り列車に「通勤特快」という種別の列車を走らせています。この列車の特徴は「停車駅が極端に少ない」ということです。

高尾駅発の列車は八王子、立川、国分寺、新宿、四ツ谷御茶ノ水、神田、東京と停車していきます。

この列車は中央特快の停車駅である、三鷹と中野を通過するので、国分寺を出ると次は新宿まで止まりません。しかし所要時間を比べてみると、昼間の中央特快の方が所要時間は短くなります。それは通勤特快停車駅は少ないが速度が非常に遅いということです。というのも先行の列車を追い越せる駅は限られており2分間隔で走る列車にすぐ追い付いてしまうからです。

それでも通勤特快を運行しているのは、都心に近い駅(三鷹や中野)からの乗客は快速列車へ、多摩地域(八王子や立川)からの乗客は通勤特快へといったように遠近分離をする為に低速で駅を通過し、混雑の分散を図っています。

これは特定の列車が極端に混雑しないように乗客の流れを誘導し、乗降時間の拡大による遅延を最小限にとどめる為の措置であるといえます。

 

このように中央快速線は朝夕ラッシュの輸送力確保の為の工夫や設備が整備されています。しかしそれでも抜本的な解決には至っておらず、ラッシュ時の需要の多さに驚かされます。

今後は少子高齢化によりどの路線も輸送人員の低下が予想されており、JR東日本がどこまで混雑緩和に向けた動きを見せるのかが注目どころではないでしょうか。

ブルーライン脱線事故から見えてくる鉄道従事員の過酷な勤務体系

8月29日に横浜市営地下鉄ブルーラインで起きた脱線事故、この事故は運転士の居眠りが原因で起きたと発表されています。当路線では6月にも工事用車両の転線等に使用する「横取り装置」の撤去を失念したことによる、初電の脱線事故が発生したばかりで利用者からの目は厳しさを増しています。

f:id:southsnows:20190910102908j:plain

装置の撤去を失念したことによって発生した脱線事故 復旧にはかなりの日時を要した ※画像:日刊新聞

事故は踊場駅の引き込み線で発生しており、当列車は折り返し準備のため引き込み線へ進入しました。その際に運転士が居眠りをしており、車止めを突破してトンネルの壁に衝突して停止しました。通常はATCなどの列車制御装置により、列車の速度が制限速度を超過している際は自動的に列車の速度を落としたり、停車させることが出来ます。しかしこの引き込み線は営業用の線路ではなく旅客が乗った状態で使用しないことからその装置が設置されておらず事故につながったといわれています。

f:id:southsnows:20190910102726j:plain

車止めを破壊して壁に突っ込み脱線した車両 ※画像:京都新聞

突然ですが、皆様は「3K」という言葉をご存知でしょうか?

鉄道業はこの「3K」の職場であるとよくいます。われています。

3Kとは「きつい」「汚い」「危険」の3つの言葉が由来となっており、まさに鉄道業(主に現業職)はこの職種に当てはまります。

 

①きつい

鉄道は首都圏だと深夜1時頃に終電が終わり、早朝5時前からは初電が走り始めます。すなわち駅が営業していないのは4時間未満に過ぎません。その間に駅係員や乗務員は仮眠を取り、早朝からの勤務に備えます。

鉄道会社にもよりますが、早番遅番を導入している場合は、終電前に仮眠に入って初電が走り始める前から仕事をする早番と、終電後まで仕事をして仮眠に入って朝ラッシュ前から勤務に戻る遅番があります。また一部の会社では早番遅番がなく、全員で終電まで作業し、初電前から仕事に戻る場合もあります。

終電が遅れればその分係員の仮眠時間も削られますし、終電近くのトイレは汚物などの汚れがひどい場合もあり、会社によってはその清掃も駅係員が行っていますので、臭い等がひどい場合は大変な作業になります。

また、ホーム上で列車の乗り降りを確認したり、旗などを使って乗務員に閉扉合図を出すホーム監視業務がある駅もあります。一見ただ旗を振っているだけのようですが、旗を挙げるタイミングを見計らう必要があったり神経を使う仕事です。

また、暑い夏も寒い冬も暴風が吹き荒れても、雪が降ってもその仕事は必要な仕事です。ホームで電車を待つだけでも嫌になりますが、駅係員はそれを何時間も行っているのでかなり体力的にもきつい仕事です。

また最近ではモンスタークレーマーなどが増えており、窓口で接客する駅係員はそういった人にも応対しなければなりません。接客業をされている方はお分かりいただけると思いますが、これはかなり精神的にきついものがあります。

 

②汚い

終電近くの駅のトイレやホーム上にある汚物の処理や、具合が悪くなって吐血等をされた場合はたいてい駅係員が清掃しています。

この時の臭い量の多さに絶句する新入社員は多く、それに耐えられない人も中にはいるようです。

また駅自体が古いと、駅係員が使用する事務室なども汚い場合が多く、環境は決していいとは言えない状況です。

 

③危険

ホーム上で列車監視をしている際は、ホーム端で旗を振ったり、安全確認をすることが多くあります。すなわち、何かの拍子に線路上へ転落する恐れがあったり、列車に接触する危険があります。最近ではホームドアの導入が進んでいる路線もあるので、そういった面では危険性が軽減されてきています。

その他にも酔客の対応で暴力を振るわれる恐れがあったり、トラブルが起こった際は線路上に降りて作業をする場合があったり、一歩間違えれば即死する場合も存在します。

また乗務員であれば、一つの操作ミスが自分だけでなく多くの命を危険にさらす恐れもある責任が思い職務です。それだけ、危険が多い職場でもあるのです。

 

このように、鉄道従事員は3Kと呼ばれる過酷な勤務をこなしているのが現状です。

 

~鉄道従事員は睡眠不足になりやすい勤務体系~

駅係員や乗務員は日勤勤務と泊まり勤務を交互にこなすことが多い勤務体系です。

その中でも泊まり勤務は、「4時間仮眠18時間勤務」が一般的であり4時間の仮眠も終電対応や初電前の点検、着替え等の時間が含まれており4時間寝れる場合は稀です。

また、泊まり勤務の明け番で帰宅後に睡眠をとってしまうと昼夜サイクルが逆転して日勤業務に支障をきたす恐れがあるため、睡眠をとらない人も多くいます。

乗務員に関しては勤務開始時間が分刻みで決まっており、日によって時間もまちまちです。そうすると自ずと生活習慣が不規則になり睡眠不足や体調不良を引き起こしやすくなります。

 

他の業種にも泊まり勤務は存在しますが、多くの場合は3交代制になっていたり、泊まり勤務者は必要最低限かつ予備要員という扱いのところが多くなっています。

鉄道業界も同じような勤務体系を取ればいいと思われがちですが、鉄道は基本的に朝ラッシュの時間帯(7時から9時頃)が忙しく、昼間はそれに比べると落ち着き、夕方の帰宅ラッシュから終電頃までは利用者数が多くなったり、酔客等の対応が発生したり忙しくなります。

朝ラッシュの時間帯に多くの人手を必要とするので、終電まで勤務して駅に泊っている駅係員や乗務員を翌朝の朝ラッシュ時にも充当しなければならず、睡眠不足の状態で勤務にあたっているのが現状です。今回の事故も睡眠不足の状態である乗務員が引き起こした事故であり、ラッシュ時間帯の話でした。

そうするとミスなどのヒューマンエラーが発生しやすくなるのは当たり前のことであり、仮眠時間の不足による問題の解決には人員の増員が必要になりますが、人手不足が叫ばれる今日では難しいでしょう。

公共交通機関であるがゆえに、無理な勤務体系がゴリ押しされてきた鉄道業界ですが、これは日本社会の窮屈さを体現しているともいえます。鉄道従事員の働き方を考えることが結果的に私たちの働き方にも関わってくるような気がしてなりません。

台風接近による計画運休の是非について

昨日の夜から本日の朝方にかけて、台風15号が接近上陸し、関東南部を中心に猛烈な風と雨を降らせました。

この影響でJR東日本JR東海は一部路線の「計画運休」を発表、実際に終電時間の繰り上げ一部路線の運休を実施しました。主な路線としては、

東海道新幹線

東海道線

伊東線

京葉線

内房線

外房線

といった海沿いを走行し、強風の影響が大きい路線が計画運休を実施しました。

 

そして、9日の始発から朝方にかけては

山手線、京浜東北根岸線東海道線横須賀線総武快速線中央線(快速)中央・総武線(各駅停車)中央本線埼京線川越線宇都宮線高崎線常磐線(快速)、常磐線(各駅停車)、成田線武蔵野線南武線横浜線、相模線、青梅線五日市線八高線京葉線鶴見線伊東線

首都圏のほとんどの路線が運休することになりました。

これは台風や地震などが発生した場合は線路設備の点検等に時間がかかることによる措置です。実際、線路や架線への倒木や線路冠水といった事象があちらこちらで発生し、撤去や安全確認にかなりの時間がかかりました。

f:id:southsnows:20190909181122j:plain

品川~大崎駅間での倒木 撤去にも時間がかかるうえ、他の場所でも同じような事象が多く発生した ※画像:日刊スポーツ

f:id:southsnows:20190909181401j:plain

暴風で屋根が吹き飛んだ東千葉駅 線路上に散乱した端材を回収し安全確認作業をする必要がある ※画像:日刊スポーツ

 

そういった意味でも計画運休の実施や事前アナウンスは非常に良いと思います。

計画運休を事前にアナウンスしていた今日でさえも、多くの駅に乗客が押し寄せて運転再開を待つ長蛇の列が出来たり、運転再開をした数少ない路線に乗客が集中するなどの事例が確認されています。

f:id:southsnows:20190909181615j:plain

運転再開を待つ旅客 この人数が駅構内に流れ込むと新たな事故の原因にもなりかねない 計画運休のアナウンスがなかったらと思うと恐ろしい ※画像:日刊スポーツ

もしこれが事前にアナウンスされずにいたら駅の混乱や混雑は更に大きくなっていたでしょう。過度な混雑は体調不良者の発生や、駅構内での滞留などによる危険を増大させるといった新たな被害をもたらすことがあります。そういった危険の回避や軽減を目的に行われる計画運休及び事前アナウンスは今後も積極的に取り入れる必要があります。

 

首都圏の鉄道は深夜1時頃に終電が終わり、早朝5時頃からは初電が走り始める為、線路のメンテナンスや安全確認等はその間の4時間以内でしか行えません。また駅係員はその短い時間で仮眠をとり、早朝からの勤務に備えています。その中でこういった自然災害による被害が発生すると、そちらの対応に追われることは想像に難くありません。

すなわち、線路の復旧や安全確認をする時間が終わらなければ列車は動かせないのに、多くの旅客が駅に押し寄せてしまってはそちらの対応にも人員を割く必要が出てくるため、結果的に運転再開に向けた作業が遅れてしまいます。

人手不足や人員削減により鉄道の現場で働く人々の数は減少傾向にあります。そういった方々の負担を減らすべく、今後も鉄道会社は積極的に計画運休を実施し、安全な輸送を行うことはもちろん、そういった大変な状況の第一線で働く現場の方々の負担を軽減してほしいと思います。

また、この風潮が社会全体にも広まり、自然災害発生時には一般企業も臨機応変に社員を出社させる、または始業時間を繰り下げる、休業するといった対応をしてほしいと考えます。

この風潮が許されなければ、日本の社会は非常に窮屈で融通が利かない社会になってしまいますし、働き方改革など行えるはずもありません。計画運休に反対する方もいらっしゃるようですが、それは結果的に自分自身の首を絞める結果になっているのではないでしょうか。

 

今回の事象をきっかけに日本社会全体が変わっていくことを切に願っています。

事故復旧からみる京浜急行電鉄の凄さと現場の力

5日の午前11時40分頃、京急本線神奈川新町駅仲木戸駅間にある「神奈川新町第一踏切」にて、京急線快特列車と13トントラックが衝突し、列車は先頭から3両が脱線、先頭車は転覆は免れたものの正面は大破し無残な姿になりました。乗員乗客約35名が負傷し手当を受けていると報道がされています。

一方トラックも大破し、トラックを運転していた方は残念ながらお亡くなりになりました。

この事故でお亡くなりになったトラック運転手の方のご冥福をお祈りすると共に、負傷された方々の回復をお祈りさせていただきます。

f:id:southsnows:20190906185920j:plain

車両は勿論のこと、架線柱などの設備も大破した ※画像:iza

この事故によって京浜急行電鉄は横浜~京急川崎駅間の運転を取りやめ、復旧作業に尽力していました。上の写真からもお分かりいただけるように車両は勿論のこと、架線柱や線路といった設備も大破しています。

復旧作業と聞くと脱線して壊れた列車等を移動させることが目がいきがちですが、実際には線路の修復や幅の調整、架線柱などの電気設備の復旧や通電確認など、作業は多岐にわたるとともに人手が必要になります。

この作業を約2日間の間にすべて終了させ、7日の午後1時過ぎから運転を再開させた京急電鉄はすごい会社であると思います。

この早い復旧には現場の方々が昼夜問わずに作業をされたことによって実現されたものです。

事故現場付近では安全確保のため通過速度を制限して運行しているという状況のようですが、それでも2日でここまで通常通りに復旧させるのは並み大抵のことではありません。現場の方々のプロフェッショナルな仕事ぶりには敬意を表します。

また、それ以外の区間でも折り返し運転等の対応で普段とは違う運行体制ながらも旅客輸送の使命を全うされた現場の方々の凄さには感服しました。

また列車の自動運転化を進める動きが出ていますが、こういったトラブルや事故の際はやはりプロフェッショナルがいるからこそ安全かつ迅速に対応が行われていると思います。そういった現場の方々の力を軽く見ないでほしいと筆者は改めて思います。

 

通常通りに走っていて当たり前と思われがちな鉄道ですが、そういった現場の方々の日々の努力があって運行が成り立っています。

人身事故等のトラブルで列車が遅延したり運転見合わせになった際に、駅員さんなどに怒鳴り散らすモンスター客がいるのをよく見かけます。こういった現場の方々の努力を知っていただき、トラブルが起きた際にはイライラする気持ちは分かりますが、現場で頑張っている人々に当たり散らすのは止めてもらいたいなと切に願っています。

なぜ中央特快は吉祥寺を通過するのか(後編)

前回は「なぜ中央特快は吉祥寺を通過するのか(前編)」と題して中央快速線の種別についてまとめてみました。

southsnows.hatenablog.com

今回は本題の吉祥寺に中央特快が停車しないのかを見ていきたいと思います。

 

中央快速線駅別利用者数ランキング(1日平均乗車人員)

1位:新宿 769,000人

2位:東京 440,000人

3位:立川 166,000人

4位:中野 146,000人

5位:吉祥寺 142,000人

6位:国分寺 112,000人

7位:御茶ノ水 105,000人

8位:神田 101,000人

9位:三鷹 96,000人

10位:四ツ谷 95,000人

中央快速線利用者のみではなく他路線利用者も含む

 

ランキング1,2位は世界一利用者の多い駅新宿と東京の玄関口である東京駅が入ってきます。そして3位には多摩地区で今一番大きい都市となった立川駅が入ります。10年程前までは吉祥寺駅の方が利用者数が多かったのですが、近年の立川周辺の発展により立川駅にその座を譲ることになりました。4位に中央特快の停車駅である中野駅、5位に今回の主役である吉祥寺駅がランクインしています。

 

ちなみに、ランキング中の駅名が太文字になっている駅は東京23区外に駅が位置しており、赤文字は中央特快が停車しない駅です。

このことから分かることが、中央特快が停車しない駅で唯一吉祥寺駅はトップ10にランクインしているということです。23区外にある駅ではトップの座を立川駅に譲りましたが、それでも23区外だと2位につけており、これだけみると吉祥寺に中央特快を停車させていてもおかしくないと考えるでしょう。しかし、現実では中央特快は停車せず通過していきます。ということで、その理由をいくつか考察してみました。

f:id:southsnows:20190908093810j:plain

近代的な駅舎が特徴的な吉祥寺駅 特快が止まらない駅の中では最も利用客が多い ※画像:Wikipedia

 

京王井の頭線への利用者流出を防止している

吉祥寺駅はJR中央快速線緩行線(地下鉄東西線直通も含む)と京王井の頭線が乗り入れる駅です。京王井の頭線は吉祥寺~渋谷間を結ぶ路線で、途中の明大前駅では京王本線に乗り換えることが出来る利便性の高い路線です。

すなわち京王井の頭線中央快速線にとって、吉祥寺以西から渋谷方面への利用者を巡りライバル関係にある路線と言えるのです。

立川~渋谷までJRのみ(新宿経由)で行くと550円かかりますが、吉祥寺で京王井の頭線に乗り換えると411円になるので140円程安くなります。所要時間はJRのみの方が中央特快を利用すれば5分程早いものの、5分しか変わらず140円高いとなれば多くの旅客が京王井の頭線経由で利用すると考えられます。

従って、中央特快を吉祥寺に停車させると利用客がライバル路線である京王に流れてしまうため、あえて通過させて自社線を利用してもらうようにしているということです。

f:id:southsnows:20190908100016j:plain

吉祥寺から渋谷を結ぶ京王井の頭線 JR線とのライバル路線である ※画像:Yahoo不動産

 

②多摩地区対都心利用の遠近分離

吉祥寺駅は23区外にある駅ではあるものの、一つ隣の西荻窪駅からは23区内の駅となります。すなわち多摩地区の中でも23区にほど近い場所に位置する駅になるのです。もし中央特快が当駅に停車すると、三鷹、吉祥寺と連続停車することになり所要時間も伸び、速達性が悪くなります。また、吉祥寺に停車すると吉祥寺からの利用客が中央特快を利用することが出来るようになり、後続の快速と特快の混雑率に大きな差が生じることになります。また、特快と快速は隣の三鷹駅で接続を取っており、特快のすぐ後を追うように快速列車が三鷹駅を出発します。もし特快が吉祥寺に停車すると、電車が団子状態になり、後続の快速がノロノロ運転をせざる負えなくなるといった問題もあります。

これはJR側からすると良いことではないので快速と特快の混雑率の平準化列車間隔を維持するためにあえて吉祥寺を通過させているのです。

吉祥寺から都心へ向かう場合は快速で15分弱(新宿~吉祥寺間)あれば到着してしまう距離です。すなわち「吉祥寺から都心へは特快を使わなくてもそこまで時間はかからないから快速をご利用ください」というこということなのです。

 

③中央特快は隣の三鷹駅に停車する

 だったら三鷹を通過して吉祥寺に特快を止めればいいのではないかと思われる方もいるかもしれません。しかし駅の構造上、三鷹駅に特快を止めた方が利便性が向上するのです。

まず吉祥寺駅の構造は2面4線の高架駅であり、そのうち1面2線を中央快速線、残りの1面2線を中央緩行線が使用しています。すなわち、中央快速線が使用できる線路は上り下りで1本ずつであり、当駅で接続や追い越し等は出来ません。

一方で三鷹駅の構造は3面6線の地上駅であり、そのうちの2面4線は中央快速線のホームに割り当てられています。すなわち、上り下り共に1面2線を使用することが出来るので、当駅で退避や接続を取ることが可能なのです。これにより、快速から特快への乗り換え及びその逆もスムーズに行うことができ、利便性が確保されるのです。

 

以上の理由から中央特快は吉祥寺を通過します。このように利用者数のみで速達種別の停車駅が決まっていないケースはほかにも存在します。鉄道会社も利益が出なければ列車を走らせられませんので、利害関係も裏で大きく関わってきます。こういった背景が分かると面白く見えてくるのではないでしょうか。

JR東日本「えきねっと」

なぜ中央特快は吉祥寺を通過するのか(前編)

東京都の中心を東西に走る中央快速線。東京駅から高尾駅までを結ぶ当路線には様々な種別の列車が走っています。今回は前編として、中央快速線を走る種別の説明を簡単にまとめていきたいと思います。

f:id:southsnows:20190907124248p:plain

中央快速線には多くの種別が設定されている

中央快速線には、各駅停車普通快速通勤快速中央特快青梅特快通勤特快という種別の列車が走っています。また東京と信州を結ぶ路線の一部でもある為、特急「あずさ」や「かいじ」も当路線を走っている他、八王子~大宮駅間を結ぶ「むさしの号」という列車も運転されています。

種別の紹介

①各駅停車

中央快速線を走る列車は日中は基本的に中野駅から先は快速運転を行っていますが、早朝と深夜帯に走る列車は各駅停車として運転され、三鷹駅御茶ノ水駅手前まで中央総武各駅停車線の線路を走行します。基本的に早朝と深夜帯の運行のため、沿線に住んでいる方以外はあまり見かけない種別だと思います。

※ただし下り列車の三鷹駅以西は快速列車を各駅停車と案内している為、それを含めると日中も各駅停車を見ることは可能です。

 

②普通

この列車は立川以西で運行される列車で、中央快速線の西端である高尾駅より先の大月・甲府方面へ直通する列車の種別です。停車駅は各駅停車と同様ですべての駅に停車します。ほとんどは高尾駅を始発として運行されているのですが、一部列車が立川や豊田駅始発で運行されています。

f:id:southsnows:20190907184854j:plain

高尾以西で活躍中の211系電車 最長6両編成で運用されており、一部は立川まで足を延ばす ※画像:レイルラボ

③快速

中央快速線で一番メジャーな種別です。この快速は平日と土休日で停車駅が変化するのが大きな特徴です。平日は中野駅までは各駅に停車し、新宿、四ツ谷御茶ノ水、神田、東京の順に停車する列車です。

しかし、土休日ダイヤで運行される日は三鷹中野駅間でも快速運転を実施しており、西荻窪阿佐ヶ谷高円寺の3駅を通過します。

このように複雑になった背景には「杉並3駅問題」があります。

杉並3駅問題とは・・・

1960年代に中野~三鷹間の複々線化工事が行われ、当時の国鉄西荻窪、阿佐ヶ谷、高円寺を通過させる予定でした。しかし複々線化工事の用地提供をした、杉並区民や杉並3駅の地元住民から反対意見が上がり、杉並3駅にも快速列車を停車させることが決まりました。50年以上がたった今現在も、その決まりに基づき快速列車駅となっており(土休日ダイヤ時を除く)、快速列車の速達性が十分に活かされない結果になっています。

 

④通勤快速

通勤快速は平日の帰宅ラッシュ時間帯の下り列車のみで運行される種別で、中野を出ると、荻窪吉祥寺駅に停車し(杉並3駅である高円寺、阿佐ヶ谷、西荻窪駅を通過)、三鷹国分寺、立川(立川以遠は各駅に停車)の順に停車します。後述する中央特快よりもこまめに停車するのが特徴的です。

 

通勤特快

通勤特快平日の通勤ラッシュ時間帯の上り列車のみで運行される種別で、高尾発の列車は八王子、立川、国分寺の順に停車、国分寺を出ると新宿まで止まらない種別です。国分寺新宿駅間の12駅を連続通過する停車駅が究極的に少ない種別ですが、通過する駅をかなり低速で通過する為、所要時間は日中の中央特快よりも長い列車です。

列車はかなりの混雑具合かつ長時間停車しない為、国分寺駅到着前の放送では「体調の優れない方は後続の快速列車に乗り換えてください」といった趣旨の放送がされる程です。

 

⑥中央特快・青梅特快

 今回の主役ともいうべき種別です。まず中央特快と青梅特快の違いは、立川駅より先、中央線の高尾駅まで向かう列車が中央特快、青梅線に乗り入れて青梅駅まで向かう列車が青梅特快という違いです。停車駅等には違いはありません(以前は青梅特快のみ国分寺駅を通過していた時期もあった)。

両種別の停車駅は立川までの各駅と、国分寺三鷹、中野、新宿、四ツ谷御茶ノ水、神田、東京です。基本的には国分寺駅三鷹駅で先行の快速列車と接続するダイヤが組まれています。

 

⑦特急「あずさ」「かいじ」

JR東日本の特急列車の中でも知名度の高い列車で、あずさは長野県の松本駅まで、かいじは山梨県甲府駅(一部は竜王駅)まで運行されています。一部列車は東京駅発着であり、あずさ号の1往復は千葉駅発着のロングラン列車(この列車は松本止まりではなく南小谷駅まで直通)も存在します。

特急列車は基本的に新宿を出ると立川(あずさ号1往復のみ通過)、八王子と停車し大月方面へ直通して運行されています。以前はかいじ号三鷹駅に停車していましたが、今年のダイヤ改正で全列車が通過することになりました。

 

⑧むさしの号

「むさしの号」は一日に数本しか運転されていない列車で中央快速線の列車と分類していいか迷いましたが面白い列車なので紹介したいと思います。

この列車は「快速むさしの号」が定期列車化されたもので、八王子駅が始発・終点になります。停車駅は豊田、日野、立川、国立と停車し、その後は武蔵野線を経由して大宮駅へ至ります。

この列車は特徴のある列車の一つなので別の機会で詳しく紹介したいと思います。

 

このように中央快速線には様々な種別、行先の列車が運行されており、バラエティに富んだ路線となっています。

次回は後編として、中央特快がなぜ吉祥寺駅を通過するのかをまとめてみたいと思います。

southsnows.hatenablog.com