日本の鉄路について考える

日本の鉄道についての記事を中心に紹介します

北海道新幹線の是非について考える(下)

前回の中編では北海道新幹線が札幌まで延伸し全線開通したら道内の交通網にどういった変化をもたらすか考察しました。

southsnows.hatenablog.com

 今回は北海道新幹線が全線開通したら首都圏の交通事情にどういった変化が起こるかを考察していきたいと思います。

 

北海道新幹線が全線開通したら・・・対東京編

北海道新幹線が全線開通した際にすでに開業している区間の最高速度が現在と変わらなかった場合、東京~札幌間の所要時間は約5時間となります。

これは東海道・山陽新幹線の東京~博多間と同じ位の所要時間となります。東京~博多間の鉄道対航空機のシェア比率は8:92となっており、航空機のシェアが圧倒的に高くなっております。

2016年度の数値ですが羽田空港新千歳空港の利用は約900万人であり、仮に1割程度の旅客が新幹線の利用に流れた場合は約90万人の利用が見込まれます。

 

また今年に入って北海道新幹線の高速化の話題がいくつか出てきています。

青函トンネル内の最高速度の向上

盛岡~新青森間の最高速度引き上げ(260km/h→320,360km/h)

③宇都宮~盛岡間の最高速度引き上げ(320km/h→360km/h)

④東京~大宮間の最高速度引き上げ

北海道内の新幹線速度の向上(未開業区間を含む)

 

①の青函トンネル内の最高速度の向上はすでに行われており、140km/hから160km/hに引き上げられました。これにより、東京~新函館北斗間の所要時間は4分短縮され、最速4時間2分から3時間58分となりました。この区間は在来線(主に貨物列車)と新幹線が共用して走行する区間であり、物流の大動脈でもあります。その為、貨物列車の速度向上や退避設備の増設が難しいこと、ダイヤの関係からして最高でも260km/h運転が現実的ではないでしょうか。第二青函トンネルの建設といった話もありますが、工費や維持費の観点から見て現実的ではないでしょう。

 

②の盛岡~新青森間の最高速度引き上げについては320km/h運転は宇都宮~盛岡間で既に行われているので技術的な部分ではそう難しくはないと思います。しかし、盛岡以北は、「整備新幹線」として建設された区間であり260km/h運転を前提に建設されています。その為防護壁の高さや線路の規格もそれに準じて設計されています。すなわち、さらなる高速運転を実施するには防護壁の拡張や線路の高規格化が必要となるのです。

360km/h運転に対応するには宇都宮以北の設備をすべて360km/h運転に対応できる設備にする必要があります。また、高速化が進むとそれに伴って騒音問題が発生してきます。特に高速で走行する新幹線がトンネル内に進入すると、空気が圧縮されることで衝撃波のようなもの(トンネル微気圧波)を発生させ、トンネル出口付近で発破音や衝撃を引き起こします。これを通称「トンネルドン」と呼び、騒音問題の大きな課題となっています。

この問題を解決する為に、JR東日本では「ALFA-X」という車両で高速走行運転の試験を実施しています。この車両の実験データをもとに360km/h運転が可能になれば北海道新幹線の所要時間は大きく短縮されることは間違いありません。

このように東北新幹線の高速化が北海道新幹線の高速化に大きく連動してきます。

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JR東日本が開発した「ALFA-X」 先端の長い鼻が特徴的である

 ④の東京~大宮間の最高速度は110km/hとかなり抑えられています。これは東北新幹線建設時に地元の住民の反対運動が激化し最高速度を110km/hに制限せざるを得なかった歴史的背景があります。また東北新幹線を建設する代わりに地元の住民の利便性を向上させる為、埼京線を建設したとも言われています。

建設当初からすると今の新幹線は騒音対策がしっかりと進んでおり、この区間の速度を向上しても騒音問題にはならないのではないかといった話が出ています。これにより一部区間では130km/h運転に向けた工事が行われているようですが、それでも速度が遅いと感じてしまいます。

ただこの区間の最高速度の向上による所要時間短縮効果はそこまで大きいものではないので、これ以上の速度向上はないと思います。

 

⑤の北海道内の新幹線速度の向上(未開業区間を含む)はJR東日本の高速運転試験がうまくいけば十分に可能性はあります。しかし路線の高規格化にかかる費用の問題(JR北海道には資金的に不可能)や、雪の問題があると思いますので、320or360km/h運転の実施は東北新幹線の360km/h運転開始の更に後になると思います。

 

とはいうものの大宮~札幌までの全区間が360km/h運転になると東京~札幌間の所要時間は最短で3時間57分と算出されています。これが実現すれば東京と札幌の移動においても新幹線のシェアが大きく拡大することでしょう。

 

北海道新幹線が全線開通したら・・・対首都圏編

北海道新幹線が全線開通しても、東京~札幌までのシェアは現実的に考えると飛行機優位な状況が続くと思います。

ただ、見方を少し変えると面白い考察が出来ます。それは大宮~札幌に向かう場合は新幹線利用が圧倒的に優位になるということです。

今現在は大宮から札幌へ向かう場合も羽田空港を経由して札幌へ向かうのが一般的です。しかし、北海道新幹線が開通して東京~札幌間が4時間30分で結ばれたとしましょう。東京~大宮まで新幹線は約25分かかるので、大宮~札幌までは約4時間で結ばれることになります。

大宮駅~羽田空港までは1時間強、新千歳空港~札幌駅までも約1時間かかります。航空機は搭乗手続きにも時間がかかるのでフライト時間と合計すると新幹線の方が速いのです。

このように対東京で考えると苦しい部分はあるものの大宮以北であれば新幹線の優位性が目立ってくるという訳です。新函館北斗駅まで新幹線が開通した際も仙台~函館の新幹線利用が大きく躍進したというデータもありますので、札幌延伸時は同様の効果が期待できると思います。

すなわち札幌対北関東及び東北の新幹線の優位性が向上すると考えます。

 

北海道新幹線が全線開通するまで早くてもあと10年あまり。この間に新幹線がどこまで高速化していくかは未知数です。しかし現時点でも高速化に向けた研究や努力が行われています。その成果が発揮され新幹線の存在が更に増していることを願って筆をおかせていただきます。