日本の鉄路について考える

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札沼線の末端区間廃止から思うこと(後編)

札沼線の末端区間廃止から思うこと(前編)では、札沼線が持つ二つの顔について、両者を比較しながらまとめてみました。

southsnows.hatenablog.com

 今回は2020年に廃止が決定されている、北海道医療大学駅新十津川駅間の廃止について考えていきたいと思います。

 ①輸送人員が極端に少ない

北海道医療大学駅新十津川駅間が廃止になる最大の要因は輸送人員が少ないことです。

当たり前のことですが、鉄道を運行するには維持費や人件費、燃料代などの経費がかかります。その費用を旅客が支払う運賃によって回収しているわけですが、同じ列車を走らせても利用者が少なければ当然運賃収入は減少します。すなわち、一列車あたりの儲けが減少し、それが赤字になる場合もあるわけです。

北海道医療大学駅新十津川駅間の輸送密度は57(人/km/day)と国鉄再建を促進する為にバス転換が妥当とされていた4,000(人/km/day)を大きく下回る結果となっています(平成29年度)。すなわち、国鉄再建時であれば間違いなく鉄道路線としては廃止され、バス転換等の措置が取られていたと思われます。

 

また、この区間で100円の収入を得るためにかかる費用は2,213円と営業係数が1,000を超える大赤字の状態です。これでは列車を走らせるほど赤字になってしまう危機的状況です。

 

北海道医療大学駅の1日平均乗車人数は2,000人を超えていますが、その先の新十津川駅までの各駅ではそれを大きく下回ります。この区間唯一の有人駅で利用需要が比較的大きい石狩月形駅でさえも 、1日平均乗車人数は79人です。その後浦臼駅13.2人新十津川駅8.4人と続き、1日平均乗車人数が1人以下の駅もこの区間だけで5駅存在します。

石狩月形駅は月形高校へ通学する学生の通学需要があり、その利用で比較的需要があるのだと思われますが、その他の地域輸送としての役割は果たせていないのが現状です。

 

このような利用実態を踏まえ、JR北海道「将来にわたり収支の改善が見込めないため」として、北海道医療大学駅新十津川駅間(47.6km)の廃止を決定しました。

 

函館本線と近い場所を走っている

次にあげられるのが札沼線の廃止区間函館本線と並走している形になっているということです。まずは下の地図をご覧ください。

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今回廃止される区間(赤線)は函館本線と比較的近い場所を走行している 画像:鉄道ニュース速報

この地図から分かるように、札沼線新十津川駅へ向かうにつれて札沼線函館本線(緑線)に寄っていくことが分かると思います。

実際、新十津川駅近くにある新十津川村役場から滝川駅まではバスで15分かからない距離です。

また函館本線には特急列車が多く走っており、滝川駅にはその特急列車も停車する為、本数も1時間に2,3本程度あります。新十津川駅周辺に住んでいる方も対岸にある滝川駅を利用するのが一般的であると容易に想像がつきます。

 

ここで新十津川駅滝川駅の両駅を比較してみると以下のようになります。

 

滝川駅からは札幌までの直通列車(特急)が出ており、所要時間が短い

(→新十津川駅から札幌までは途中駅で乗り換えが必要で、所要時間も長い)

滝川駅からは毎時2,3本の列車本数が確保されている

(→新十津川駅からの列車は1本のみしかなく時間帯も微妙で不便、日帰りも出来ない)

滝川駅から出る列車の方が車内設備も新しく、居住性が高い

(→新十津川駅からの列車は古い車両で、最近の車両に比べると居住性が低い)

 

これだけの条件を比較しても分かるように、鉄道で札幌方面へ出かけようと考えた時に、後者の滝川駅を選択することは必然的な事実であると道外の私でも思います。

 

以上のように札沼線北海道医療大学駅新十津川駅間は月形高校への通学利用は若干あるもののそれ以外の利用は鉄道ファンの利用を除けばほとんどないものと思われます。

区間の廃止後は月形高校への通学需要を踏まえバス路線が新設されることが決まっており、輸送実績的にもバス輸送で十分まかなえると思います。またバスの運行の方が経費も抑えられ、本数の増加といった利便性の向上も見込めると考えます。

 

日本全体で少子高齢化や地方都市の過疎化などの問題が発生し、残念ではありますが今後も鉄道路線の廃止やバス転換が実施されていくと思います。

しかし、利用実績によってバス転換をした方が地域の足として活躍できる場合もあると思います。「何が何でも鉄道を残さないといけない」という考えではなく、地域輸送とは何なのか、そこをしっかりと見据えたうえで交通網の整備を行ってほしいと思います。