日本の鉄路について考える

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武蔵小杉駅周辺の発展から見えてくる課題

神奈川県中原区に位置する武蔵小杉駅。2000年まではJR南武線東急東横線の乗換駅であるものの当駅の存在感は現在からは想像できないほど薄いものでした。

2000年になって東急目黒線武蔵小杉駅まで延伸し、2008年には目黒線が日吉まで延伸開業し東急線はほぼ現在と同じ形になりました。

武蔵小杉駅が大きく変化するきっかけになったのが2010年にJR横須賀線武蔵小杉駅が開業したことです。この新駅開業を境に武蔵小杉駅とその周辺は大きな変貌を遂げることになりました。

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駅周辺にはタワーマンションや商業施設が立ち並び、その姿は圧巻である

人の流れの変化

1950年代に現在の駅の位置に武蔵小杉駅が開業しました(それまでは東急線には工業都市駅が付近にあり、南武線にはグラウンド前駅が存在していた)。この頃の武蔵小杉周辺は工業エリアとして発展しており、駅周辺は企業の工場などが立ち並ぶ風景が広がっていました。

しかし2000年代に入ると工場の移転や閉鎖がみられるようになり、工場跡地にタワーマンションの建設が始まります。この時に川崎市東急電鉄JR東日本、不動産会社が大規模な都市開発や交通網の整備を行うことになりました。

このように行政が街開発の誘導や指揮を執ることで、武蔵小杉は工業都市から一変、高層マンション住宅街へと変化していったのです。

そして2000年には東急目黒線武蔵小杉駅まで乗り入れを開始し、2008年には日吉駅まで延伸、2010年にはJR横須賀線武蔵小杉駅が開業し、同時に湘南新宿ラインや特急成田エクスプレス、特急踊り子などの乗り入れも開始されました。

そして現在では、JR南武線横須賀線湘南新宿ライン、東急東横線目黒線の計5路線が乗り入れる拠点駅になっています。また今年度中にJR東日本相鉄線との直通運転が開始予定で、JR埼京線相鉄線の列車も当駅に乗り入れる予定になっており、今後も武蔵小杉駅の存在感は増していくと予想されています。

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横須賀線湘南新宿ラインのホーム カーブの途中に駅がある為電車は傾いて停車する

駅周辺の発展

武蔵小杉駅が複数路線が乗り入れる交通の起点駅になったことで、武蔵小杉駅に向かう人の流れが形成されました。駅周辺の利便性も向上し、「グランツリー」や「ららテラス」、「東急スクエア」といった大型商業施設が次々に誕生しています。また、タワーマンションの建設が進み、駅周辺の人口が急激に増加しました。この人口増加が鉄道利用の需要を大きくしており、ラッシュ時間帯の混雑が大きな問題となっています。

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再開発前には工場などが目立ち、タワーマンションなどはそこまで多くない ※画像:マンションジャーナル

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再開発後はタワーマンションの建設が進められ、現在では11棟が完成しているが今後も新棟の建設が予定されている ※画像:マンションジャーナル

利用客数の増加

人の流れの変化や駅周辺が発展し人口が増加したことで、武蔵小杉駅の利用者数が急激に増加しています。JR横須賀線が開業する2010年以前はJR武蔵小杉駅の1日平均乗車人員は9万6千人程度で推移していましたが、2010年を境に10万人を突破し現在では12万人を超えています。

東急武蔵小杉駅1日平均乗車人員は2010年以前から10万人を少し超える程度で推移していましたが、2010年から3年程度は10万人を割り込み、その後は11万人程度まで戻しています。2010年から数年間の減少の理由はJR横須賀線が開業したことで、横浜や都心方面までの競合ルートが出来たことで、利用者の一部がJR側に流れたことによるものだと考えられます。また、その後利用者が増加しているのは2013年から東急東横線東京メトロ地下鉄副都心線相互直通運転を開始したことで新宿や池袋方面へ直通を開始したことが主な要因であると考えられます。

現状から見えてくる課題

 ①混雑率が上昇している

国土交通省が発表している鉄道混雑率のデータによるとJR横須賀線の武蔵小杉~西大井間の混雑率が196%、JR南武線武蔵中原~武蔵小杉間は189%と両線ともに混雑率が悪化していることが分かっています(データは2017年度)。

混雑率180%は「折りたたむなど無理をすれば新聞を読むことができる」、200%は「電車が揺れる度に体が斜めになって身動きが取れず、手も動かせない」程度の混雑具合であることから、かなりの混雑であることが分かると思います。

 

ただし、両線ともに列車本数は限界に近いところまで増やして対応しているので、これ以上の増発は期待できないと考えられます。また、車両の編成長については南武線は現在6両での運転であり、8両編成化を要望する声が出ています。しかし、途中駅のホームが6両以上に対応できない(ホームの両端が踏切になっているなど)ことや、近年高架化された稲城長沼駅などが8両対応になっていないことを考えると、JR側は8両化することを検討しているとは思えません。また横須賀線については現状でも15両編成で運行しておりこれ以上の増結は難しいでしょう。

さらに今年度から相鉄線との直通運転が開始されることで10両編成の列車が直通を開始する予定です。この列車が増発の形でダイヤに組み込まれるようであればまだしも、別の列車を置き換えて運行される場合は輸送力の減少になります。そうすると今以上に混雑が悪化することが考えられます。

 

横須賀線から南武線東急線への乗り換えが不便

武蔵小杉駅を利用したことがある方はご存知の通り、JR横須賀線のホームと南武線東急線のホームは別の駅かと思うほど離れた場所にあります(500mほど離れており徒歩で10分程度)。横須賀線側の駅は川崎市から請願されてできた駅とはいえ、かなり距離があるのでお世辞にも乗り換えがしやすいとは言えない状況です。しかし、どちらの駅も移設等を行うのは難しいので現状から改善される見込みは薄いと思います。

 

③駅の設備が利用者数の増加に追い付いていない

 武蔵小杉駅1日平均乗車人員はここ最近大きく伸びてきています。その伸びは想定以上のものであり、駅設備がそれに対応しきれていない点が多く見受けられます。その中でも大きな問題になっているのが以下の点です。

・新南改札口の自動改札機、エスカレーターが少ない

乗り換え連絡通路への導線問題

横須賀線南武線のホーム幅が狭い

 

一つ目に挙げた新南改札(横須賀線ホームに近い改札)の自動改札機やエスカレーターの数が少ない問題は、かなり大きな問題でした。酷いときには改札内に入るのに10分かかり、「電車で都心(品川駅)まで10分、改札に入るのにも10分」と大きく揶揄されているほどでした。

現在は改札機やエスカレーターの増設と移動導線の改善により改善に向かっていますが、それでもスムーズに改札内に入ることは難しいようです。

 

そして二つ目の乗り換え連絡通路への導線問題です。東急線南武線から横須賀線に乗り換える際(連絡通路経由)には南武線のホームを通行する必要があるのですが、南武線のホームも決して広くはなく、ラッシュ時は南武線を待つ列とベンチの間のほんのわずかなスペースを通路として使用している状態です。電車が遅延していたり、ラッシュの最混雑時間帯は乗車待ちの列が通路側に伸びてきてしまい、通行にかなりの時間がかかっているのが現状です。

武蔵小杉駅からは空港アクセス特急成田エクスプレスが発車しており、キャリーケースなど大きな荷物を持った人も利用しているため、この通路問題は大きいと思います。

この改善策としてJR東日本南武線のホーム幅拡張工事を実施し、若干ホーム幅が広がりましたが、混雑具合も悪化しており焼け石に水といった状況です。

 

三つ目のホーム幅が狭い問題についてです。南武線のホーム幅は先述の通り、若干広くなりましたが、それでも足りないほどラッシュ時のホーム上の混雑は激しくなっています。最近では帰宅ラッシュ時に立川方面行の電車が5分程遅れるだけで、ホームが人で溢れかえり「入場規制」が行われることがあるほどです(他路線で5分程度の遅れで入場規制をする例は聞いたことがない)。

同様に横須賀線のホームもカーブ上に設置されている関係で幅が極端に狭い場所があり、島式ホームであることから、上り線と下り線を利用する旅客が同一ホーム上で電車を待つことになり、混雑具合に拍車をかけています。

また横須賀線ホームには横須賀線湘南新宿ラインといった列車が到着をするため、遅延が発生しやすい路線です(横須賀線は東京から総武快速線湘南新宿ライン東海道線高崎線宇都宮線に直通しており、埼京線と線路を共用している区間があり他路線の遅延等の影響を受けやすい)。

その為、数分の遅延が発生することが多い路線ですが、その数分の遅延で「積み残し」や駅の「入場規制」が頻繁に行われています。

この混雑状況を受けて、JR東日本はラッシュ時間帯に武蔵小杉駅に到着する特急列車の運行を取りやめ、新たに通勤列車を増発するといったダイヤ変更を行っています。ただそれでも混雑の改善には程遠く、更なる設備改良としてホームの増設と新規改札口の開設をすることが発表されました。具体的には下りホームを新設し、現在上り下りで共用しているホームを上り専用にするというものです。

 

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下りホームを新設し、新規改札口も設ける予定の横須賀線ホーム ※画像:JR東日本

これによりホームが方向別に分かれる為、一つのホームで待つ乗客が分散され、今よりは混雑が緩和されるとされています。

また連絡通路と連絡通路へつながる南武線のホームの混雑緩和策としては横須賀線ホーム(新南改札とは反対側)に新規の改札口を新設し、改札外乗り換えを推進する狙いがああります。この改札口は現在の新南改札より南武線側にある為、一定数の利用が見込めると思われます。

 

以上のように街の発展が急速に進むと、交通インフラなどはそれに対応できないことが武蔵小杉駅をみるとよくわかります。今後もタワーマンション等の建設で人口が増えることが予想される武蔵小杉エリア。この先武蔵小杉駅がどのような変化をしていくのか注目です。