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南武線快速稲城長沼行設定の真相

 2019年3月のダイヤ改正に伴い、帰宅ラッシュ時間帯南武線快速運転が開始されました。

具体的な内容としては、下り列車は平日17~19時台に快速列車を4本を(川崎発稲城長沼駅行)運行し、上り列車は平日18~19時台に快速列車を4本(登戸発川崎行)運行するというものです。

接続の取り方としては上り列車が登戸駅武蔵中原で快速と各駅停車の接続が図られます。一方下り列車は武蔵溝ノ口駅稲城長沼で接続するダイヤが組まれています。

そこで今回はこの快速運転に実施による効果をみていきたいと思います。

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南武線に導入されているE233系 快速運転が始まり早8年あまりが経過した ※画像:Wikipedia

①所要時間が短縮される

下り列車で見てみると、川崎から立川まで各駅停車のみを利用するよりも、川崎から稲城長沼まで快速を利用し、同駅で接続する各駅停車を使用した方が5分程度の所要時間の短縮になる計算です。

上り列車についても、立川から川崎まで各駅停車のみを利用するよりも、途中の登戸で同駅始発の快速に連絡することで所要時間の短縮となります。

 

②立川行の列車の混雑が緩和される

この快速新設の目的としてはこちらがメインではないかと思われます。といいますのも、武蔵小杉をはじめ南武線沿線は近年急速に発展しており利用客の増加が顕著に表れている路線です。

しかし南武線は首都圏では短い6両編成で運行をしており、8両編成化の見通しはほとんどありません(津田山駅や西国立駅は踏切が駅両端にあるため、8両編成化するとドアカットなどの措置が必要となるといった観点から)。

また車両基地電車区の関係で車両の留置数が限られており、これ以上の増発や増結には土地や設備が新たに必要となるといった問題があります。南武線沿線は住宅地や企業の設備が多く存在しており、新たな用地確保は非常に厳しいと思われます。

こういった背景から今回の快速稲城長沼行は誕生したのだと筆者は考えます。

まずはじめに南武線の路線図をご覧ください。

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快速運転区間が全区間になったことで利便性は大きく向上した ※画像:Wikipedia

南武線の快速列車は川崎を出ると、鹿島田武蔵小杉武蔵中原武蔵新城武蔵溝ノ口登戸稲田堤稲城長沼と停車していきます(立川行はその後府中本町、分倍河原、立川と停車)。このうちの武蔵溝ノ口稲城長沼で先行する各駅停車立川行に接続するダイヤになっています。

南武線の混雑区間は川崎から武蔵溝ノ口駅間でその後は立川方面へ向かうほど混雑率は低くなっていきます。すなわち、川崎から武蔵溝ノ口駅間の列車ごとの混雑率の分散がカギを握ります。

快速稲城長沼行が誕生する前は、立川行、登戸行、立川行、稲城長沼行といったように立川行の間に途中駅止まりの列車が挟まって運行されているのが基本のダイヤでした。またすべてが各駅停車なので、途中駅での待ち合わせ等はなく、登戸や稲城長沼より先の立川方面まで利用する旅客は立川行に流れ、それよりも川崎側の駅を利用する人は次に発車する列車が必ず先着するので行先関係なく先発列車に乗り込みます。そうすると、立川行列車の需要が大きくなり、相対的に途中駅止まりの列車よりも混雑するのは明白です。

これが快速稲城長沼行の設定により大きく変わります。というのも、快速は1本前の各駅停車を武蔵溝ノ口駅で、稲城長沼駅で2本前の各駅停車に追い付きます。これにより、快速列車に乗れれば途中駅で先行の立川行に追い付けるようになったのです。

すなわち、稲城長沼から先の各駅に向かう場合、2本前の各駅停車立川行に乗車するか、快速稲城長沼行に乗車すればいいという訳です。これだけでも立川行の混雑は分散します。

そして武蔵溝ノ口稲城長沼までの快速通過駅を利用する場合は1本前の各駅停車か快速に乗車して武蔵溝ノ口で接続する各駅停車(1本前の各駅停車)に乗り換えればいいということになります。同様に川崎~武蔵溝ノ口(武蔵小杉~武蔵溝ノ口間は各駅停車なので実質武蔵小杉まで)間の快速通過駅を利用する場合は快速列車以外に乗車すればいいという訳です。

これをトータルで見ると遠近分離がうまくなされており、近距離利用者は各駅停車を、中長距離利用者は快速に乗車、乗り換えをしてもらうことで特定の列車が混むことを防止しています。

この遠近分離が利用者数の多い川崎から武蔵溝ノ口駅間で行えているのがこの快速稲城長沼行の効果なのです。

 

※快速稲城長沼行のデメリットを受ける駅

当該駅は当たり前ではありますが、快速列車の通過駅です。しかし、武蔵溝ノ口駅で先行の各駅列車に乗り換えが可能なので、実質デメリットを受けるのは通過駅の中でも尻手、矢向、平間、向河原の4駅のみです。

この4駅は川崎からも近く、乗車時間もそれほど長くはないので、それよりもメリットの大きい快速稲城長沼行の設定を行ったものと考えられます。

 

今後も南武線の利用需要はある程度まで伸びることが予想されています。8両編成化や車両数の増量が厳しく、ほぼ並行して走る武蔵野貨物線の旅客化は現実的に行われる見込みはありません。そうするといかに混雑率を分散し特定の列車に乗客が集中しないように工夫する他ありません。

今後もラッシュ対策としてどんなダイヤを組んでいくのか注目されています。