日本の鉄路について考える

日本の鉄道についての記事を中心に紹介します

北海道新幹線の是非について考える(上)

2016年3月26日、新青森新函館北斗駅間に北海道新幹線が開通しました。

北海道新幹線とは整備新幹線の一つであり、計画では新青森~札幌までを結ぶ新幹線です。未開業区間である新函館北斗~札幌については2030年度末の開業を目指し工事が進められています。

この北海道新幹線JR北海道が運行を担当していますが、その運行が赤字となっておりJR北海道への負担が大きくなっているのが現状です。

そこで、北海道新幹線の現状の課題と全線開通したらどうなるかを考察していきたいと思います。今回の上編では現状の課題について考察し、中、下編では全線開通したらどうなっていくかを掘り下げていきたいと思います。

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北海道新幹線車両のH5系 ぱっと見はE5系とほとんど変わらないが車体ラインが紫色なのがポイント 内装もE5系とは異なる H5系は本数が少ないので出会えたらラッキー

 現状の課題

①本数が少ない

北海道新幹線は2019年現在、東京~新函館北斗間が1日10往復、仙台、盛岡、新青森新函館北斗間で1日1往復ずつの計13往復が運転されています(繁忙期は臨時列車が運行される)。すなわち、北海道新幹線1時間に1本未満しか設定されていないのです。

同時期に開業した北陸新幹線でも1日24往復程度が運行され、ミニ新幹線と呼ばれている山形新幹線秋田新幹線も1時間に1~2本程度の運行頻度で運転されていますので、いかに本数が少ないかがお分かりいただけると思います。

 

②輸送人員が少なく赤字になっている

これについては新幹線開通前の在来線時代の輸送人員のデータからも予測されていたものではあります。それでも在来線時代よりも輸送人員は増加したというデータが出ていますが、開業後は年々輸送人員がゆるやかに減少しております。これは開業初年度は開業ブームによる需要と試しに乗ってみようという旅客の利用で大きく輸送人員が伸びましたが、その後は少しずつ落ち着いてきているというものでしょう。新函館北斗~札幌までの全線開通は先になりますので、このまま静観するのではなく、イベントや企画券といった切符等の発売で利用を促進出来るのが望ましいと思います。北海道新幹線が全線開通する前に経営主体のJR北海道の経営が行き詰まらないことを祈るばかりです。

 

青函トンネル内でスピードが抑制されている

北海道新幹線青森県と北海道の間を海底トンネルである青函トンネルを使用して走行しています。この青函トンネルは旅客輸送だけでなく本州と北海道の物流を支える貨物輸送にも利用されています。この貨物列車の本数が多く、速度が速い新幹線が最高速度で走行すると先行する貨物列車に追いついてしまう恐れがあることや、トンネル内で高速で走行する新幹線とすれ違うと風圧で貨物列車の荷物が荷崩れするなどの影響があることから開業当初は140km/hでの運行になっていました。2019年のダイヤ改正でこの区間は最高速度160km/hまで引き上げられましたが、本来の力を出し切れてはいません。

 

新函館北斗駅函館市内から遠く不便

新函館北斗駅。名前を聞くと函館駅に近そうな雰囲気がありますが、何を隠そう新函館北斗駅函館市のお隣北斗市にある駅なのです。私も実際に北海道新幹線を利用して函館を訪れたことがありますが、新函館北斗駅から在来線(函館ライナー)に乗り換えて20分程かけて函館駅に到着します。

なぜ新函館北斗駅函館市街から離れた場所にあるのかというと、北海道新幹線のゴールは函館ではなく札幌だからです。すなわち新函館北斗駅は将来途中駅となる駅であり、その先札幌へ向けて線路が伸びていくのです。まずは下の地図で位置関係を見ていきたいと思います。

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新函館北斗駅函館市街から離れた場所にあることが分かる

この地図からお分かりいただけるように、函館市街は函館湾の東側に位置しており、小さな半島のようになっています(函館山がある辺り)。もし仮に新幹線を函館駅に乗り入れようとすると線形が大きくカーブを描くことになり、速度が制限される上、函館駅で進行方向の変換が必要になります。(ちなみに新幹線開通前に走っていた寝台特急北斗星カシオペアトワイライトエクスプレスといった列車は函館駅で機関車を付け替え、進行方向が逆になるような運行体系を取っていました。)。これは秋田新幹線大曲駅でも同様の事例があるので対応は可能ですが、所要時間が大きく変化することは間違いありません。

 

札幌へ向けては地図の上側、すなわち北側に進路を取る必要がある為、線路を大きく迂回させることなく函館市街にもある程度近い在来線との接点がここ新函館北斗駅の位置だったのです。北海道新幹線はあくまでも東京から札幌を結ぶ新幹線であるが故に対函館では中途半端になってしまった感が否めません。

ちなみにこの駅は新幹線が出来るまでは渡島大野駅という特急も止まらない小さな駅でしたが、北海道新幹線の開通によって大きく変化を遂げています。

 

⑤対函館では4時間の壁を越えられていない

北海道新幹線の再速達列車は東京を出ると大宮、仙台、盛岡、新青森新函館北斗にしか停車しない列車が該当します。この列車に乗った場合、東京~新函館北斗までの所要時間は3時間58分と4時間の壁を越えられているように見えます。しかし、新函館北斗駅から函館駅までは在来線で20分程度、乗り換え時分を考慮すると30分はかかってしまうのです。すなわち東京~函館間だと所要時間は約4時間30分となり、対航空機とのシェアが有利になる4時間の壁は越えられていないのです。

一方の航空機は羽田空港函館空港まで約1時間20分であり、函館空港から市街へのアクセスも悪くないため新幹線開通後も航空機のシェアが高い状態が続いています。

 

以上5つの観点で現状の課題について考察してみました。

次回以降は全線開通後の展望を北海道編、首都圏編に分けて考察をしていきたいと思います。