日本の鉄路について考える

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幻となった京急の延伸計画

京急久里浜線三浦半島南部の堀之内(横須賀市)から三崎口(三浦市)を結ぶ京急の路線の一つであり、堀之内から先は京急本線へと直通しています。

この路線には三崎口から先、油壷までの延伸計画が存在していましたが2016年に延伸計画の凍結が発表されました。今回は幻となった油壷延伸計画についてご紹介させていただきます。

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三崎口から油壷、三崎へと延伸計画があった久里浜線 同路線が延伸していれば三崎港までのアクセスは格段に良くなったであろう ※画像:gooニュース

三崎口駅は仮の終着駅だった

現在の久里浜線の終着駅は三崎口駅ですが、この駅は仮の終着駅として建設された駅でした。1966年に久里浜線三崎口駅の一つ手前である三浦海岸駅まで延伸し、その先の油壷、三崎(現在の三浦市役所、三崎港付近)まで延伸を計画していました。

しかし1970年に油壷~三崎間の延伸計画の廃止が決定し、三浦海岸から油壷までの延伸計画に変更されました。そして1973年から同区間の工事が開始され、三浦氏初音町の国道134号線と交差する部分まで工事が進められました。ただ、その先の用地取得が難航していたことなどがあり、その先の工事にはなかなか着工できない状態でした。そこで京急は1975年、134号線との交差部に三崎口駅を開業させて暫定的な終着駅としました。これにより現在の三崎口駅が完成しました。

そのため三崎口駅の終端側を見ると、その先にもしばらく線路が敷かれ、トンネルなどの設備を確認することができこの駅が仮の終着駅であったことを教えてくれます。

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三崎口駅の終端部 その先にも線路が伸びておりトンネルなどの設備が確認できる(トンネル上は国道134号線) ※画像:response

②人口減少が進む三浦市

京急電鉄は、「三浦半島における人口減少地価の下落などを踏まえ、三崎口~油壷間の延伸事業と、同区間内の三戸、小網代地区の土地区画整備事業などによる大規模宅地開発事業を凍結する」と発表しました。

これは延伸区間にあたる三浦市の人口減少による影響が大きいと思われます。というのも、三浦市の人口は1995年をピークに減少の一途を辿っております。

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三浦市の人口は1995年を境に年々減少を続けている ※画像:三浦市役所

このペースで進むと、5年後には人口が4万人を下回りいずれ2万人台へと突入する予想です。少子高齢化都心回帰の動きが進んでいる今日、他の自治体でも同様の動きがみられるものの、三浦市の人口減少スピードは速いと思われます。

その三浦市の中でも京急三崎口駅がある初声地区に比べ、鉄道の通っていない三浦地区(三浦港などが含まれるエリア)の減少率が明らかに大きくなっています。この現状から油壷まで延伸をしても採算が取れないと京急電鉄は判断したのでしょう。

鉄道会社は公共交通機関を動かす企業ではあるものの収益があげられなければ生き残っていけません。そういった意味ではこの延伸計画の凍結はやむを得ないと思います。

 

③土地買収・開発が困難であった

区間の延伸工事が進められていた時期はバブルの頃であり、土地の値段がどんどん上がっている時代でした。その為、延伸予定地の土地の所有者が土地を売却するのを渋り、計画が進まなかったのが当時の大きな原因です。

現在は土地の価格は下落しており、計画を再開することは出来たかもしれません。しかし現在は他の問題が大きく立ちはだかっているのです。

それは風致地区に制定されていることです。1970年代に開発が大きく進められた当地域では開発によって自然が破壊されることを防ぐため、地元の農業、漁業関係者が風致地区を制定する為に動きました。風致地区とは「樹林地や海浜などの自然的景観に優れた場所や、史跡名勝などがある区域の環境を保全する」ということを目的としており、これにより当地域の開発に大きな制限が課せられました。

実際には海岸線付近の建造物建設に大きな制約があるほか、市街化区域にこの風致地区が重なっていたことで市街化が進まず人口が増加しなかった原因にもなっています。

また油壷マリンパークが大型施設に出来なかった一因となっており、現在の三浦市の状況からすると負の遺産といわれても仕方のない状況です。

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雑草の生い茂る中に埋もれた線路 この線路を列車が走ることはない ※画像:はまれぽ

こういった要因が重なり京急久里浜線の油壷延伸は幻となりました。三浦市は神奈川県では数少ない消滅可能性都市のひとつです。今後の京急久里浜線三浦市の動向に注目していきたいと思います。