日本の鉄路について考える

日本の鉄道についての記事を中心に紹介します

房総特急の衰退

東京と房総半島を結ぶ特急「さざなみ」・「わかしお」、この両列車はここ数十年の間に大きく衰退しました。2015年のダイヤ改正では東京と内房を結ぶ「さざなみ」の館山直通列車の廃止による区間短縮(東京~君津間)や土休日の運行の廃止など観光需要の利用を捨てたといわざるを得ない状況になりました。外房方面へ直通する「わかしお」は「さざなみ」に比べれば比較的マシではあるものの、減便などによる衰退が目立ちます。

今回はその房総特急の衰退にある背景についてみていきたいと思います。

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長年房総特急の顔として活躍している255系 ※画像:ニッポン放送

 東京湾アクアラインの開通

東京湾アクアラインが開通する以前は房総方面への鉄道利用が多くあり、海水浴シーズンである夏季はかなりの賑わいぶりを見せていました。

その一例として観光需要の増える夏季に設定された「房総夏ダイヤ」というものがありました。当時の時刻表を見ると、今よりも多くの特急や普通列車が設定されていたのはもちろんのこと、臨時快速列車の設定もされていました。

しかし、1997年に東京湾アクアラインが開通し、モータリゼーションの進行やそれに付随した道路の整備等により鉄道利用は大きく減少します。そして房総夏ダイヤは1998年の夏季の設定を最後に姿を消しました。

 

②千葉県内の高速道路網の充実

東京湾アクアラインの開通を皮切りに、千葉県内の高速道路網も拡大することになりました。2007年には館山自動車道が全通、2013年には圏央道の木更津東~東金間が開通するなど、ここ10年程度の間に房総半島の道路状況は格段に良くなり、便利になりました。これによりモータリゼーションの進行に拍車をかけ、内房線外房線の利用者数の減少へとつながる結果になりました。

実際、1980年台後半には内房線(君津~安房鴨川)、外房線(茂原~安房鴨川)共に輸送密度は9000人を超えていました。しかし2011年には内房線(君津~安房鴨川)では3000人程度、外房線(茂原~安房鴨川)では5000人程度にまで落ち込んでいます。両者の原書率の差は内房側の方がより一層アクアラインの恩恵を受けている為であると推測できます。

 その後、外房線に関しては微増傾向ではありますが、内房線は減少傾向にあり厳しい状況が続いています。

 

③高速バスの台頭

高速道路が開通すると、その高速道路の恩恵を活かした高速バスの運行が開始されるケースが多く見られます。房総方面への高速バスも例外ではなく多くの路線が運行されています。東京から2時間程度で行くことのできる房総半島は観光需要があり、高速バスの運行は成功を収めました。その一方で在来線特急は本数や料金等で劣るようになり、利用者数の低迷に見舞われました。

同じ千葉県内の鹿島神宮や銚子方面を結んでいた「あやめ」が2015年に廃止となりましたが、これは高速バスの台頭により利用者数が低迷したことが一因であるといわれています。

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2015年に廃止となった特急「あやめ」

アクアラインや高速道路の開通により鉄道の需要が減少した房総半島ですが、車利用が多くなった影響で道路の渋滞などの新たな問題が生じています。一方鉄道は渋滞もなく定時性が確保されるといったメリットが存在します。東京から2時間圏内にあり、観光需要は大きく見込めるエリアです。今の現状に甘んずることなく、観光列車の設定や「渋滞がなく快適な旅になる鉄道の魅力」を全面的に押し出すなど利用創出に力を入れることが出来れば状況が変わってくるのではないかと思います。

五日市線減便から見えてくる首都圏鉄道網の今後

東京の郊外を走る五日市線拝島駅から武蔵五日市駅までを結ぶ約11kmの短い路線です。全線単線ではありますが、電化されており中央快速線でおなじみのE233系が使用されています。朝夕には拝島から青梅線中央快速線に直通し東京駅まで乗り入れる列車もあります。

2015年のダイヤ改正以前は日中の時間帯でも1時間に3本の間隔で列車が設定されており20分毎に列車がやってくるようなダイヤになっていました。それが2015年のダイヤ改正後は日中の時間帯に減便が実施され、1時間に2本の間隔となってしまいました。

20分と30分、両者の差は10分ではありますが、心理的にはこの差は大きいと思います。20分間隔であれば駅での待ち時間は長くても15分程度であり、ダイヤを気にせず駅へ向かうことも出来る感覚でしたが、30分間隔になると最悪の場合30分近くも駅で待つ恐れがあります。減便された当時は、「東京から1時間30分程度で乗車できる五日市線が地方ローカル線のような立ち位置である」ということに驚きを隠せませんでした。

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緑の中を駆け抜けるE233系 ここも東京都の一部である ※画像:鉄道ホビダス

①沿線は車社会である

東京は公共交通機関が発達しており、自家用車がなくても不自由なく生活できるというイメージが浸透しています。実際東京23区内や吉祥寺駅を有する武蔵野市多摩地域の中心である立川市などでも公共交通機関が発達しており便利になっています。

しかし、五日市線の沿線である、あきる野市やその先の桧原村青梅線の青梅~奥多摩間にあたる奥多摩町などは同じ東京都とは思えないほど緑が豊かな地域で、人口も少ない地域です。この地域では駅を中心に発展しているわけではなく、街道沿いなどが発展しているケースが多くあります。そういった背景から地元住民は車での移動がメインとなっており、東京では珍しく車社会となっています。それ故に、立川や都心方面への通勤需要はあるものの、日中の移動需要が少ない、これが五日市線の利用需要の低さにつながっていると考えらえます。

 

②通学利用者が減っている

近年は少子化が進み、沿線にある高校への通学利用が減少していることも挙げられます。どの高校でも学級数が減少したり、通学費用を抑えるために自転車通学する学生も多くなってきていることから、より一層の学生離れが進んでいると思われます。

また授業後や部活後に電車で帰宅しようとしても、30分間隔でしか列車が来ないとなるとどうしても不便さが際立ってしまいます。そうすると家族が車で迎えにきたり、自由の利く自転車を利用する学生が更に増加する恐れもあると思います。

 

多摩地域の存在感が低下している

近年では都心回帰の動きが出ており、多摩地域の人口が減少傾向にあります。

この減少傾向は多摩地域の中心を担っている、立川や八王子近辺でも見られており、全体的に多摩地域の存在感が低下している現状があります。

その後立川周辺の再開発などで持ち直している地域もあるものの、五日市線沿線のあきる野市桧原村青梅線末端区間奥多摩町などでは年々人口が減少しています。

この都心回帰の動きは今後も加速することが予想され、五日市線沿線自治体では過疎化などの問題に直面する恐れがあります。そうなった場合、五日市線の利用者数も連動して減少することが予想されますので、今後データイムを中心に減便等の措置がなされるのではないでしょうか。

 

しかし、五日市線沿線には秋川渓谷などの観光スポットがあり、土休日にはホリデー快速が都心から直通で、1日に3本も運行されています。この列車は行楽客に好評であり、かなりの混雑をみせています。この観光需要をいかに活かせるかが今後のカギになると思います。平日は現状維持が限界だとしても、土休日は行楽客の取り込みよる需要の拡大が狙えると思います。

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201系「四季彩」 以前は観光用の列車が青梅線に存在していた ※画像:Wikipedia

青梅線に201系が走っていた時代には「四季彩」という観光向けに改造された201系列車が活躍していました。しかしE233系に置き換えられてからはそういった観光向けの列車がありません。そういった観光向けの列車を走らせることで話題となり、都心からもアクセスが良いことから利用の創出は地方のローカル鉄道と比較すれば可能性が大いにあります。今後の五日市線の未来は多摩地域の未来を反映すると思われますので、今後の動向に注目していきたいところです。

中央線特急の新たな着席サービスについて

中央線特急のあずさ号、かいじ号の使用車両がE257系、E351系からE353系に置き換えられたことにより、2019年のダイヤ改正で中央線特急の着席サービスに大きな変化が生まれました。それは自由席を廃止し全席指定席化(座席未指定券利用もあり)を行ったことです。今回はその着席サービスの変化を比較していきたいと思います。

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中央線特急の顔となったE353系 富士回遊号にも使用される ※画像:JR東日本

①自由席が廃止された

今回の改正で一番の変化はこの自由席の廃止です。これにより中央線特急の座席は全席指定化され、指定席特急券座席未指定券のどちらかを利用することになります。

指定席特急券と座席未指定券の値段に差はありませんから、繁忙期など満席でなければ座席指定券を購入するのがベストです。座席未指定券は名前の通り座席が指定されていませんから、どの列車にも乗車することができ、販売されていない座席を利用することが可能です。したがって、どの列車に乗るか決めていない場合や満席で立ったままでもいいから乗りたいといった場合には便利な一面もあります。

ここで座席未指定券って何なの?と思われる方もいらっしゃるかもしれませんので簡単にまとめてみます。

座席未指定券とは列車や座席を指定して購入する指定席特急券とは異なり、列車や座る席を選択することができます。しかし座席に関しては指定席特急券で発売されている座席には着席できません。すなわち、途中駅からその座席の指定席特急券が売れている場合は途中駅からは座席の移動もしくは立ったまま利用することになります。

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座席ごとにランプが設置されており色によって座席の状況が分かるようになっている ※画像:JR東日本

このように座席の上部には座席ごとのランプが設置されており座席の発売状況によってランプの色が変わる仕組みになっています。緑色は指定席特急券が発売されている席であり、その座席の指定席特急券を持った旅客しか着席できません。黄色はまもなくすると指定席特急券が発売されている区間に入る座席ということで、この先の停車駅から指定席特急券を持った旅客が利用する予定になっている席です。赤色は空席となっている席なので座席の未指定券でも着席が可能ですが、この先の発売状況によってはランプの色が黄色緑色に変わる可能性があるので注意が必要です。どちらにせよ、その席の指定席特急券を持った旅客が乗車した際には席を譲ることになります。

 

 ②料金体制が変わった

具体的な料金を比較するとキリがないので詳細な金額は割愛させていただきますが、基本的には「自由席は値上げ、指定席は値下げ」というイメージです。ですので普段から指定席を利用していた場合は今回の改正で値下げになり、自由席を利用していた場合は値上げになったと感じる形です。ですので一概に値上がりしたわけではありません。これに付随してグリーン料金も全体的に値下げになっています。これにより短距離の自由席利用者が減少する為、長距離を利用する旅客にとっては席が確保しやすくなったというメリットもありそうです。

 

③車内で購入すると割高になる

 自由席があった頃は、車内で近距離利用の自由席特急券を買い求める乗客が多く、ラッシュ時間帯はライナー代わりに利用するサラリーマンの姿も目立ちました。

しかし、全席座席指定化後は車内で特急券を購入した場合、事前料金よりも260円割高になります。また座席指定は出来ず、「座席未指定券」の扱いになってしまいますので、全区間その席に着席できる保証はありません。

すなわち、車内で特急券を購入した場合は「料金が高く座席指定もできない」というデメリットしかありません。これは乗車前に事前購入することを促すための策であると思われます。

 

④企業側のメリット

この全席指定化はJR東日本にとってメリットがあるシステムとなっています。

一つ目は人件費の削減が出来る点です。自由席があった時には検札自由席特急券の車内での発売など、車掌の業務が多くありました。そのため、特急列車に乗務する車掌の人数も必要になります。それが全席指定化後は車内での特急券の発売数の減少や座席上のランプの点灯具合で席の売れ具合が分かる為、確認の手間が省けます。こうすることによって一特急列車あたりの人件費を抑えることが出来ます。

二つ目は不正乗車や特急料金の取り損ねの減少です。自由席の検札や特急券の発売には時間がかかります。また東京方では短距離利用が多く、次の停車駅まで10分~20分程度で到着してしまう場合もあります。そうすると特急券を持っていないのに乗車するといった不正乗車や払うつもりではあったけれど検札が来ないまま目的地に着いてしまい、結果的に特急料金の取り損ねになっていたケースもあったようです。それが全席指定化によって検札の効率化が図られてこういったケースは減少すると思われます。

 

今回は中央線特急の全席指定化について触れてきましたが、利用者の不満はどちらかというと停車駅の削減にあるようです。次回は中央線特急の停車駅の減少について考えていきたいと思います。</p

幻となった京急の延伸計画

京急久里浜線三浦半島南部の堀之内(横須賀市)から三崎口(三浦市)を結ぶ京急の路線の一つであり、堀之内から先は京急本線へと直通しています。

この路線には三崎口から先、油壷までの延伸計画が存在していましたが2016年に延伸計画の凍結が発表されました。今回は幻となった油壷延伸計画についてご紹介させていただきます。

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三崎口から油壷、三崎へと延伸計画があった久里浜線 同路線が延伸していれば三崎港までのアクセスは格段に良くなったであろう ※画像:gooニュース

三崎口駅は仮の終着駅だった

現在の久里浜線の終着駅は三崎口駅ですが、この駅は仮の終着駅として建設された駅でした。1966年に久里浜線三崎口駅の一つ手前である三浦海岸駅まで延伸し、その先の油壷、三崎(現在の三浦市役所、三崎港付近)まで延伸を計画していました。

しかし1970年に油壷~三崎間の延伸計画の廃止が決定し、三浦海岸から油壷までの延伸計画に変更されました。そして1973年から同区間の工事が開始され、三浦氏初音町の国道134号線と交差する部分まで工事が進められました。ただ、その先の用地取得が難航していたことなどがあり、その先の工事にはなかなか着工できない状態でした。そこで京急は1975年、134号線との交差部に三崎口駅を開業させて暫定的な終着駅としました。これにより現在の三崎口駅が完成しました。

そのため三崎口駅の終端側を見ると、その先にもしばらく線路が敷かれ、トンネルなどの設備を確認することができこの駅が仮の終着駅であったことを教えてくれます。

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三崎口駅の終端部 その先にも線路が伸びておりトンネルなどの設備が確認できる(トンネル上は国道134号線) ※画像:response

②人口減少が進む三浦市

京急電鉄は、「三浦半島における人口減少地価の下落などを踏まえ、三崎口~油壷間の延伸事業と、同区間内の三戸、小網代地区の土地区画整備事業などによる大規模宅地開発事業を凍結する」と発表しました。

これは延伸区間にあたる三浦市の人口減少による影響が大きいと思われます。というのも、三浦市の人口は1995年をピークに減少の一途を辿っております。

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三浦市の人口は1995年を境に年々減少を続けている ※画像:三浦市役所

このペースで進むと、5年後には人口が4万人を下回りいずれ2万人台へと突入する予想です。少子高齢化都心回帰の動きが進んでいる今日、他の自治体でも同様の動きがみられるものの、三浦市の人口減少スピードは速いと思われます。

その三浦市の中でも京急三崎口駅がある初声地区に比べ、鉄道の通っていない三浦地区(三浦港などが含まれるエリア)の減少率が明らかに大きくなっています。この現状から油壷まで延伸をしても採算が取れないと京急電鉄は判断したのでしょう。

鉄道会社は公共交通機関を動かす企業ではあるものの収益があげられなければ生き残っていけません。そういった意味ではこの延伸計画の凍結はやむを得ないと思います。

 

③土地買収・開発が困難であった

区間の延伸工事が進められていた時期はバブルの頃であり、土地の値段がどんどん上がっている時代でした。その為、延伸予定地の土地の所有者が土地を売却するのを渋り、計画が進まなかったのが当時の大きな原因です。

現在は土地の価格は下落しており、計画を再開することは出来たかもしれません。しかし現在は他の問題が大きく立ちはだかっているのです。

それは風致地区に制定されていることです。1970年代に開発が大きく進められた当地域では開発によって自然が破壊されることを防ぐため、地元の農業、漁業関係者が風致地区を制定する為に動きました。風致地区とは「樹林地や海浜などの自然的景観に優れた場所や、史跡名勝などがある区域の環境を保全する」ということを目的としており、これにより当地域の開発に大きな制限が課せられました。

実際には海岸線付近の建造物建設に大きな制約があるほか、市街化区域にこの風致地区が重なっていたことで市街化が進まず人口が増加しなかった原因にもなっています。

また油壷マリンパークが大型施設に出来なかった一因となっており、現在の三浦市の状況からすると負の遺産といわれても仕方のない状況です。

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雑草の生い茂る中に埋もれた線路 この線路を列車が走ることはない ※画像:はまれぽ

こういった要因が重なり京急久里浜線の油壷延伸は幻となりました。三浦市は神奈川県では数少ない消滅可能性都市のひとつです。今後の京急久里浜線三浦市の動向に注目していきたいと思います。

台風15号による千葉県内の鉄路への影響

9月8日夕方から9日朝方にかけて台風15号が関東地方に接近上陸し、暴風や大雨をもたらし各地に被害をもたらしました。

今回の台風で甚大な被害をもたらした原因は暴風です。今回の台風の進路の場合、中心の東側に当たった千葉県内では暴風が吹き荒れたと推定されています。その結果、ライフラインの寸断といった甚大な被害を受けました。一方で東京都心は中心の西側に当たった為、強風は吹いたものの被害は千葉県程ひどくはならずに済みました。

現時点でも電気が復旧していない箇所がいくつもあり、場所によっては更に1週間以上停電状態が続く恐れがあるということです。

この台風では同様に千葉県内の鉄道路線にも甚大な被害をもたらし、復旧までにかなりの時間を要することになっています。

今回は台風が鉄道に与えた影響とその凄まじさを再検証していきたいと思います。

 

①暴風で駅舎が損壊し営業不能に陥った

今回の台風では広い範囲で暴風が吹いたため、多くの駅舎が被災しました。

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鋸山や東京湾フェリーで知られる浜金谷駅 暴風により駅舎の屋根瓦が剥がれるなどの被害を受けた ※画像:めるも

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東千葉駅では駅舎の屋根が吹き飛ばされ線路上に散乱した ※画像:日刊スポーツ

このように暴風による被害は大きく、情報が少なかった当日(9日)でも今日中の復旧は厳しいことは容易に想像されました。

 

②暴風で車両が破壊された

今回の台風の凄まじさを強調するのが次の写真です。

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扉は暴風でひしゃげ、屋根には飛来物による穴が開いた ※画像:めるも

事故などによる衝突や脱線の衝撃に耐えられるよう設計された電車の車体が無残な姿になってしまっています。列車の設計上前後からの衝撃に強く、左右からの衝撃には弱いとはいえ、ここまで破壊されたケースは珍しいと思われます。

この写真だけでも被害の大きさがお分かりいただけると思います。

 

③線路上に飛来物が散乱した

先ほどの東千葉駅のように駅舎の屋根が線路上に散乱したケースもありますが、その他の場所でもかなり多くの場所で線路上に飛来物が散乱しました。

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倒木や飛来物によって線路が塞がれるなどの被害が出た ※画像:めるも

全路線の線路長を合わせるとかなりの距離になりますし、作業員の方が目視で確認しながら点検をする為、復旧への大きな足かせとなりました。

 

※運休や運転見合わせとなった路線

今回の台風の影響で京葉線内房線外房線久留里線小湊鉄道総武本線成田線鹿島線などが運転見合わせとなりました。

その中でも内房線(保田~安房鴨川駅間)、久留里線小湊鉄道については16日現在も運転再開には至っておりません

これらの路線の一日も早い復旧と千葉県内の停電等の完全復旧をお祈り申し上げます。

南武線快速稲城長沼行設定の真相

 2019年3月のダイヤ改正に伴い、帰宅ラッシュ時間帯南武線快速運転が開始されました。

具体的な内容としては、下り列車は平日17~19時台に快速列車を4本を(川崎発稲城長沼駅行)運行し、上り列車は平日18~19時台に快速列車を4本(登戸発川崎行)運行するというものです。

接続の取り方としては上り列車が登戸駅武蔵中原で快速と各駅停車の接続が図られます。一方下り列車は武蔵溝ノ口駅稲城長沼で接続するダイヤが組まれています。

そこで今回はこの快速運転に実施による効果をみていきたいと思います。

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南武線に導入されているE233系 快速運転が始まり早8年あまりが経過した ※画像:Wikipedia

①所要時間が短縮される

下り列車で見てみると、川崎から立川まで各駅停車のみを利用するよりも、川崎から稲城長沼まで快速を利用し、同駅で接続する各駅停車を使用した方が5分程度の所要時間の短縮になる計算です。

上り列車についても、立川から川崎まで各駅停車のみを利用するよりも、途中の登戸で同駅始発の快速に連絡することで所要時間の短縮となります。

 

②立川行の列車の混雑が緩和される

この快速新設の目的としてはこちらがメインではないかと思われます。といいますのも、武蔵小杉をはじめ南武線沿線は近年急速に発展しており利用客の増加が顕著に表れている路線です。

しかし南武線は首都圏では短い6両編成で運行をしており、8両編成化の見通しはほとんどありません(津田山駅や西国立駅は踏切が駅両端にあるため、8両編成化するとドアカットなどの措置が必要となるといった観点から)。

また車両基地電車区の関係で車両の留置数が限られており、これ以上の増発や増結には土地や設備が新たに必要となるといった問題があります。南武線沿線は住宅地や企業の設備が多く存在しており、新たな用地確保は非常に厳しいと思われます。

こういった背景から今回の快速稲城長沼行は誕生したのだと筆者は考えます。

まずはじめに南武線の路線図をご覧ください。

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快速運転区間が全区間になったことで利便性は大きく向上した ※画像:Wikipedia

南武線の快速列車は川崎を出ると、鹿島田武蔵小杉武蔵中原武蔵新城武蔵溝ノ口登戸稲田堤稲城長沼と停車していきます(立川行はその後府中本町、分倍河原、立川と停車)。このうちの武蔵溝ノ口稲城長沼で先行する各駅停車立川行に接続するダイヤになっています。

南武線の混雑区間は川崎から武蔵溝ノ口駅間でその後は立川方面へ向かうほど混雑率は低くなっていきます。すなわち、川崎から武蔵溝ノ口駅間の列車ごとの混雑率の分散がカギを握ります。

快速稲城長沼行が誕生する前は、立川行、登戸行、立川行、稲城長沼行といったように立川行の間に途中駅止まりの列車が挟まって運行されているのが基本のダイヤでした。またすべてが各駅停車なので、途中駅での待ち合わせ等はなく、登戸や稲城長沼より先の立川方面まで利用する旅客は立川行に流れ、それよりも川崎側の駅を利用する人は次に発車する列車が必ず先着するので行先関係なく先発列車に乗り込みます。そうすると、立川行列車の需要が大きくなり、相対的に途中駅止まりの列車よりも混雑するのは明白です。

これが快速稲城長沼行の設定により大きく変わります。というのも、快速は1本前の各駅停車を武蔵溝ノ口駅で、稲城長沼駅で2本前の各駅停車に追い付きます。これにより、快速列車に乗れれば途中駅で先行の立川行に追い付けるようになったのです。

すなわち、稲城長沼から先の各駅に向かう場合、2本前の各駅停車立川行に乗車するか、快速稲城長沼行に乗車すればいいという訳です。これだけでも立川行の混雑は分散します。

そして武蔵溝ノ口稲城長沼までの快速通過駅を利用する場合は1本前の各駅停車か快速に乗車して武蔵溝ノ口で接続する各駅停車(1本前の各駅停車)に乗り換えればいいということになります。同様に川崎~武蔵溝ノ口(武蔵小杉~武蔵溝ノ口間は各駅停車なので実質武蔵小杉まで)間の快速通過駅を利用する場合は快速列車以外に乗車すればいいという訳です。

これをトータルで見ると遠近分離がうまくなされており、近距離利用者は各駅停車を、中長距離利用者は快速に乗車、乗り換えをしてもらうことで特定の列車が混むことを防止しています。

この遠近分離が利用者数の多い川崎から武蔵溝ノ口駅間で行えているのがこの快速稲城長沼行の効果なのです。

 

※快速稲城長沼行のデメリットを受ける駅

当該駅は当たり前ではありますが、快速列車の通過駅です。しかし、武蔵溝ノ口駅で先行の各駅列車に乗り換えが可能なので、実質デメリットを受けるのは通過駅の中でも尻手、矢向、平間、向河原の4駅のみです。

この4駅は川崎からも近く、乗車時間もそれほど長くはないので、それよりもメリットの大きい快速稲城長沼行の設定を行ったものと考えられます。

 

今後も南武線の利用需要はある程度まで伸びることが予想されています。8両編成化や車両数の増量が厳しく、ほぼ並行して走る武蔵野貨物線の旅客化は現実的に行われる見込みはありません。そうするといかに混雑率を分散し特定の列車に乗客が集中しないように工夫する他ありません。

今後もラッシュ対策としてどんなダイヤを組んでいくのか注目されています。

多摩都市モノレールの箱根ヶ崎延伸について

現在上北台駅多摩センター駅間が開業し、多摩地域を南北に結ぶ役割を担っている多摩都市モノレール。当路線に延伸予定があることを皆様はご存知でしょうか?

今回はその中でも開業に現実味を帯びてきた箱根ヶ崎延伸とその他の延伸計画についてご紹介させていただきます。

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車両は4両編成でワンマン運転である ※画像:武蔵村山市

多摩都市モノレールの歴史

多摩都市モノレール多摩地域の南北輸送を目的とした路線であり、南端の多摩センター駅(東京都多摩市)と北端の上北台駅(東京都東大和市)間が運行されています。

また多摩都市モノレールは東京都や沿線自治体、沿線鉄道事業者を中心に出資、設立された第三セクター路線の一つです。

1998年11月に立川北~上北台間、2000年1月に多摩センター~立川北間が開業し現在の姿となっています。

利用者数は年々増加傾向にあり、営業損益は2005年に黒字に転換しその後も拡大を続けています。しかし、土地取得費や建設費が資本金に対して莫大であったことから経常損益の黒字化には至っておらず初期投資に伴う返済が経営を圧迫し債務超過に陥ることになりました。この事態を受けて2008年には東京都などから追加出資や借入金返済期間の延長などの経営支援を受けることになり、「東京都の負の遺産」とまでいわれる有様でした。これには工期の遅れや総工費が当初予想の2倍に膨れ上がったこと、初期費用が通常よりも多くかかっていたことが原因とされています。

しかし、この経営支援を受けた後は経常損益、当期純損益共に黒字に転換され黒字経営が継続されています。

 

多摩都市モノレールの現在

当路線の沿線には大学等の教育施設が多くあり、学生の通学利用の拡大や、立飛駅前に開業した「ららぽーと立川立飛」や立川駅周辺の商業施設の拡充により、当路線の利用需要は年々増加しています。

開業当初の1日平均乗車人員は9万人強だったのが14万人強(2017年度)にまで増加しており約15年の間に5万人程度増加した計算になります。

これにより収支の改善が進み2015年度には当期純利益10億円を突破しました。

 

その他イベント列車として「ビール列車」や「ワイン列車」などの運行や、沿線施設の入園券等とセットになった企画乗車券のような切符の販売も数多く行われています。

代表的なものとしては、ららぽーと立川立飛セット券、多摩動物公園セット券、国営昭和記念公園セット券などが販売されています。

 

列車は全列車が4両編成であり、ワンマン運転を実施しています。ダイヤは概ね10分間隔で運行されていますが、朝夕ラッシュ時は7分間隔程度になります。それでも通学時間帯は混雑が激しく、分散乗車のお願いが出るほどです。

 

多摩都市モノレール箱根ヶ崎延伸とその他の計画

まずはじめに多摩都市モノレール延伸計画について確認していきます。

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上北台~箱根ヶ崎間の延伸は実現が近く、その他にも町田や八王子方面への延伸計画も存在する ※画像:武蔵村山市

 上図のように、多摩都市モノレール延伸計画にはいくつかの計画が存在しています。

上北台~箱根ヶ崎

多摩センター~町田間

多摩センター~八王子間

今回はこの3つの計画についてみていきたいと思います。

※この他にも是政まで延伸する案や、羽村や小宮、日野を経由し現行路線と繋げて環状線にする案もあるようですがこちらが実現する可能性はかなり低そうです。

 ①上北台~箱根ヶ崎

 この区間の延伸は導入区間となる新青梅街道の道路幅拡張に向けて用地の取得や拡張工事が行われており、場所によっては延伸工事が開始できる段階に入ってきています。

これを受け2016年には「導入空間となりうる道路整備が進んでおり、事業化に向けて関係地方自治体・鉄道事業者等において具体的な調整を進めるべき」とされ、東京都では基金を設立し事業化へ向けて動き出しています。ちなみに、この区間の工建設費は800億円と試算されています。

区間はモノレールの導入空間が確保されつつあり着工開始は秒読み段階に入っているところです。延伸開業によってこれまで鉄道路線が通っていない武蔵村山市に鉄道が開通し、当市の利便性の向上や、八高線の途中駅である箱根ヶ崎駅周辺の流動に変化があるものと思われます。

 

②多摩センター~町田間

この区間も一部で導入空間の確保に向けて道路の拡張や用地確保が行われていますが、上北台~箱根ヶ崎間程は進んでいません。

そのため2016年現在、「導入空間となりうる道路整備が前提となる為、その進捗を見極めつつ、事業化に向けて関係地方自治体・鉄道事業者等において具体的な調整を進めるべき」とされています。ちなみに、この区間の建設費は1700億円と試算されています。

この区間鉄道空白地域をカバーしつつ需要の大きい町田駅までを結ぶ路線ですので、開業すれば人の流れが大きく変わることは間違いないでしょう。

 

③多摩センター~八王子間

この路線は多摩センター駅から西進し、唐木田、南大沢、京王片倉を経由して八王子へ至る路線として計画されています。

しかし、延伸に向けた導入空間の確保等が進んでおらず、開業までには長い年月が必要となりそうです。そのため2016年には八王子市単独でLRT(次世代型路面電車)の導入が検討されましたが、勾配等の問題があり技術的な問題が多いことから導入は事実上見送られています。

この区間は2016年現在、「事業性に課題がある為、関係地方自治体・鉄道事業者等において、事業計画について十分な検討が行われることを期待」という程度になっています。もし延伸が実現した場合の建設費は1900億円と試算されています。

このように、多摩都市モノレール延伸計画はいくつか存在しており、どれも開業すれば利便性の向上につながることは間違いありません。しかし工費の問題や採算性等の検討も必要になってきます。

上北台~箱根ヶ崎間については着工まで秒読み段階に入っており、ほぼ100%建設されると考えていますが、その他の計画については多摩センター~町田間については期待が持てるもののそれ以外の計画は実現はだいぶ先もしくは厳しいと考えています。

この先多摩都市モノレールの延伸によって多摩地域の交通網がどのように変化していくのか楽しみです。